ハイグレクエスト

『ハイグレクエスト』の第1話です。
ほんの少しだけ本家に投稿したことがあるSSになります。





 青い空にそびえる大きな入道雲。響き渡るセミの声。
それらの熱気で今にも溶け出して蒸発してしまいそうな灰色のアスファルト。

そんな灼熱の道を一組の女子中学生のグループが歩いている。

白いブラウスに膝より少し高めのスカート。
イマドキの中学生には当たり前の格好だ。

レナも他の女の子達に負けじと限られた範囲内で可能な限りのオシャレを楽しんでいた。

「レナ、ツバサ~、せっかく終業式で学校早く終わったんだし、どこか寄っていかない?」

3人組の右端を歩くサクラが聞く。
歩くたびにセミロングの黒髪がふわりと揺れている。

「そうだね。この暑さだし出来るだけ涼しいところに行こうよ」

「ツバサ~、どこか行きたいところある?」

2人の少し後ろを歩いていたツバサは、いきなりの質問に不意を突かれてた。

「へっ?悪い、聞いてなかった」

長身のスレンダーな身体に、短くボーイッシュな髪型、それをバランスよくまとめあげるハスキーボイス。
その魅力は、男子だけでなく女子からも絶大な支持を得ている。

「これからどこか行こうってレナと話してて、ツバサはどこか行きたいところある?」

「う~ん、そうだな……バッティングセンターとかかな」

「そ、そこって涼しいの……?」

「涼しくはないと思うけど……。明後日、野球部の助っ人頼まれちゃってるからさ」

「女子に頼るなんてウチの野球部も情けない……」

サクラが呆れたように額に手を当てる。

「ツバサちゃん昔から男の子よりスポーツ上手だったもんね~」

「そういうレナは相変わらず運動音痴のままね」

サクラが茶化すようにレナに言う。

「サクラちゃん、いくら私達3人が幼馴染とはいえその暴言は許せないよ?」

「ハハハ、ゴメンゴメン。それじゃバッティングセンターにしゅっぱ~つ!」

「もう!ホント小さい頃から調子が良いんだから!」



 お世辞にも綺麗とは言えない、古びたバッティングセンター。
ボールが投げられる前に、投手の映像が流れるようなシャレたピッチングマシーンなどはもちろんない。
扇風機が熱風を運ぶなか、不気味な笑顔で固定された人形の頭上から放たれるボールをツバサは空高く打ち返していた。

レナとサクラはその様子を窓越しのベンチに座って眺めていた。

「いっそのこと飛馬とでも改名したらどうだ」

「ツバサちゃん来週はサッカーの助っ人頼まれてるって言ってたよ」

「本っ当にウチの男子共は……」
サクラは呆れたように再びオデコに手をあてた。

「仕方ないよ。ウチの学校ただでさえ生徒の数が少ないのに、男子のほうが女子より人数少ないんだもん」

「そうだけどさぁ……」

「それにしても暑いねぇ……。私、飲み物買ってくるよ。ツバサちゃんも喉渇いてるだろうし。サクラちゃんは何がいい?」

「あ、サンキュー。私はオレンジジュースがいいな」

「オッケー」

そう言うとレナは外の駐車場の自動販売機へと向かった。
室内は気持ち程度の冷房しか効いていなかったが、外に出るとそれでも十分ありがたかったとレナは痛感した。

「あっオレンジジュースないや……。う~ん……間をとってトマトジュースでいいかな」

ターゲットを確定するとレナはスクールバッグから財布を取り出すと、100円玉2枚を硬貨投入口へと放り込んだ。

「トマトジュース、トマトジュー……えっ?!」

レナは言葉を失った。

お金を投入しようとしている彼女の手が青白く光りはじめた。

「なっなにこれ……」

その光は手首、腕と伝い、やがてレナの全身を覆っていった。

「サクラちゃん……ツバサちゃん……誰か助け…………――――――」

光が完全にレナの全身を包み込むと彼女の言葉は途中で途絶え、辺りにはセミの声と小銭がアスファルトに四散する音が響いた。






―――気持ちいい……。

肌触りが良くひんやりと冷えた床。

―――この季節にこんな涼しい場所があったなんて知らなかったよ……。

レナはその床の上に大の字になって眠っていた。

―――今度、サクラちゃんとツバサちゃんにも教えて……あれ?でも確かさっきまでみんなと一緒に……。

レナの脳裏に光に包まれる自分の姿がフラッシュバックする。

「そうだ!私、ジュースを買おうとしたら体が急に……って、ここ……どこ?」

慌てて起き上がると、レナは平たく広い石の上にいた。

とろける様な暑さもなく、時折サラッとした優しい風がレナの体をすり抜けていく。

落ち着いて周りを見てみると何かの舞台のようで、野外にも係わらずその周りには大勢の人が集まっていた。

人々の視線だけでなく、目の前に広がる草原、生まれて初めて見る長い長い地平線がレナの不安に拍車をかけた。


レナが草原の反対側に連なる山を見ていると、1人の若い女性が舞台へと上がり、彼女の元へと近づいていた。

「初めまして。私はルーナと申します」

スラっとしてスタイル抜群の身体に、小麦色の肌。紫色の長い髪。
外国の人だろうか。
肌を多く露出させた過激な服も彼女が着るととてもよく似合っている。

「あの……ここは……」

「ここはレグローのスイートタウンです」

ルーナと名乗る女性は穏やかな口調で言った。

「れぐろー?すいーと?」

「はい。ようこそいらっしゃいました勇者様」

自体が把握できずぽかんと口を開けるレナにルーナは優しく微笑んだ。

「勇者……様って……?」

レナはまだ状況を呑み込めていなかったが、これだけはハッキリとわかった。
事態はあまり良くない。むしろ悪い方向に進んでいると。

「そうです。貴女はこの世界を救うために我々がお呼びした勇者様です」

相変わらず優しい声。しかしその顔からあの優しい笑みは消えていた。
凛とした真面目な顔だった。

この人は嘘をついていない。
ルーナの目を見たときにレナはそう思った。
彼女の瞳に輝く光にはそれを確信させる強さと暖かさがあった。

「でもなんで私が……私なんてただの中学生だし……ひゃっ!?」

ルーナは突然レナの前に膝を付くと、彼女の両手をやわらかく包み込むように握った。
それをゆっくりと額へと運び、目を瞑り俯いた。

数秒たって、

「間違いありません。貴女が我々の待ち望んでいた勇者様です」

顔を上げるとルーナは嬉しそうに言った。

「この世界は今、侵略者の手に堕ちようとしています。勇者様、どうかお力をお貸しください!」

合わせていた両手をふわりと解くと、レナは再び頭を深々と下げた。

「急にそんなこと言われても……帰って夏休みの宿題もしないといけないし……」

「こちらの都合で勝手にお呼びしてしまっていて申し訳ないのですが……我々の力では貴女を元の世界にお戻しすることは出来ません」

頭を下げたままルーナが言った。

「そっか。じゃぁ早く……ええぇ!?」

まったく予想していなかった言葉にレナは驚きの声を挙げてしまった。

今年は特に宿題の量が多かった。
毎日コツコツ潰していかないととても片付く量ではない。
もう去年のような目に遭うのはまっぴらゴメンだ。

「じゃあ私はどうすればいいの!?」

「ひとつだけ可能性はあります」

ルーナは地面を見つめたまま話を続けた。

「貴女をお呼びした召還呪文は、この世界の女王様から授かったものです。女王様の身に何かあったときはこの呪文を使うようにとのことでした」

「じゃあその女王様に元の世界に戻る方法を聞いてもらえば…………ってもしかしてその呪文を使ったってことは……」

「はい……数日ほど前のことです。この世界にハイグレ魔王と名乗る軍勢がやってきまして―――」

ルーナの声が神妙なものへと変わった。
顔は伏せたまま彼女は呪文を使用した経緯の説明を始めた。






今日と同じく爽やかな風が流れる晴れの日。

「サーラ女王様……あれは一体……」

街のはずれに建てられている神殿の庭で上空を見上げる女性が2人。

この神殿の神官であるルーンと、この世界の女王であるサーラであった。

「なにか嫌な予感がしますね……」

長く流れるようなブロンドの髪に宝石が輝くティアラを身に着けたサーラは、遥か上空を滑空する飛行物体を見つめながら言った。

「ルーナ、魔術師を全員この神殿へ集めてください。召還士や賢者たちも呼んでいただけると助かります」

「かしこまりました。大至急召集致します」

そう言うとルーナは神殿の中へと入っていった。


それからしばらくして十数人に上る人数の魔術師と数名の召還士と賢者が神殿へと集まった。

飛行物体は動きを止め、空中でピタリと静止していた。

「レグロー城の上空で動かなくなりましたね。ルーナ、スノーシティの住民全員に避難勧告していただけますか?」

「了解致しました」

ルーナはゆっくりと頷くと、今度は神殿の中へは入らず市街地へと歩いていった。

レグロー城に見下ろされるように広がるスノーシティは、王都としてこの世界で最も栄え、現在も発展し続けている中央都市だ。

この神殿は城と街を行き来する一本道の中腹に立てられていた。

「女王様、あれは何なんですか?」

1人の魔術師がサラに聞いた。

他の人々も興味津々の様子で彼女の答えを待った。

「私にもわかりません……」

その言葉にその場からは不安の声が次々と漏れた。

「ただ……酷く悪い予感がします」

女王の予言は見事に的中した。
その発言の直後、轟音とともに飛行体がレグロー城へと降下し始めた。

明るい紫色をした飛行体は、機体を変形させ人形のような状態になり城の上部に着陸した。

凄まじい突風と地響きが辺りを襲う。

見た目よりしっかりと安定しているのか、不安定な形ながら昔からそこにあったかのようにずっしりと居座り始めた。

「し、城が!!」

怒りに任せ城へと杖を向けた魔術師を別の魔術師が制止させる。

「待て!何か出てくるぞ!!」

飛行物体だったものからは無数の黒い影が途切れなく溢れ出ていた。


その光景に一同が目を奪われていると、天高くから声が聞こえてきた。

『ホーッホッホッホッホッホッホッ!!!』


「ッ!?」


サーラは思わず身構え辺りを見回した。


上を見上げたとき、奇妙な仮面と真っ黒のマントに身を包んだ人物が彼女達の前に下りてきた。

『そんなに怖がることないわよ~。アタシの名前はハイグレ魔王』

「ハイグレ魔王……?」

『そうよ。アタシはこの世界の新たな支配者。アナタたちにはアタシの可愛い可愛いハイグレ人間へとなってもらうわ』

「何を言って、ッ!?」

『女王様お下がりください!!」

数人の魔術師が女王をかばう様に身を乗り出す。

いつの間にか黒い影だった集団はサーラ達を取り囲んでいた。
アヒルの顔のついた飛行体に跨り、赤く分厚い服を着て、顔は肌色の布で隠されていた。

そして、手元には巨大な武器のようなものが全て彼女達に向けられていた。

『さあパンスト団、ハイグレ銃を浴びせて全員ハイグレ姿にしておしまい!!」

その瞬間、ハイグレ銃の銃口が真っ赤に光り、そこから何本もの光線が地上へと降り注いだ。

「「「きゃあああああああああああ!!!」」」
「「「うわあああああああああああ!!!」」」

光線は次々と飛散し、赤と青の閃光が当たり一体を包み込んだ。

ハイグレ魔王はその光景を満足気に眺めていた。

『相変わらずこの瞬間は美しいわね。クセになっちゃうわ』

光が収まると、そこには……光線を打たれる前と変わらずハイグレ魔王とパンスト団を睨むサーラたちの姿があった。

「私たちの魔力を甘く見ないで欲しいですね。ここにいらっしゃるのはこの国の精鋭ばかりです。貴女のような人にこの世界は渡しません!」

巨大なシールドを発生させながらサーラが言う。
他の魔術師たちもサーラほどではないが、2~3人は余裕で覆えるほどのシールドを作っていた。

『アンタたち……よくもアタシをおちょくったわね!?パンスト団、手加減はいらないわ!何が何でもコイツらをハイグレ人間にするのよ!!」

その命令にパンスト団は返事こそしなかったが、ハイグレ銃を発射するという行為で答えた。
再び光線の雨がサーラたちを襲う。

「くっ……先ほどよりも少し激しいわね……でもこれくらいなら余裕よっ」
サーラはシールドを更に肥大化させた。

しかし、一進一退の攻防も長くは続かなかった。

「うう……女王様ダメです……魔力が持たな、きゃあああああああああ!!?」

持久戦に耐えられなくなった魔術師たちのシールドが弱まり、数人が光線を浴びせられてしまった。

「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」

光線から開放されると、深く切れ込みの入った単色のハイグレ水着を着せられコマネチのような動作を繰り返し始めた。

「こっこれは……!?」

目の前で起こった不可思議な現象にサーラを初めとする人々はただ混乱するばかりだった。

『さあハイグレ人間たち、ハイグレを拒むシールドを取り払うのよ!!』

「ハイグレ!ハイグレ!すべてはハイグレ魔王様のために!ハッ!!」

ハイグレ魔王の命令にハイグレ人間となった魔術師たちは忠誠を誓う言葉で答えた。

「みんな正気にもどっガハッ、あああああああああああああああ!!!!」

「け、賢者さんたちまで……止めて!放し……いやああああああああああああああああああ!!!」

必死の呼びかけも虚しく、ハイグレ人間たちはシールドを貼る魔術師たちに容赦ない蹴りをお見舞いしていった。
シールドを解かれた魔術師達に次々と光線が命中していく。

次から次へと新しい叫び声が響くなか、パンスト団は一斉射撃の勢いを落とさず、閃光の激しい点滅が絶えず繰り返された。



 ルーナはノースシティの避難勧告の任務を終え、神殿へと戻ろうとしていた。

「なんだあの光は……?」

ハイグレ光線による激しい閃光は数キロ離れた街中からでもハッキリと確認することができた。

「女王様が危ない!

ルーナは歩みを駆け足へと変え神殿へと急いだ。」

ルーナが神殿に帰還すると、そこには目を覆いたくなる光景が広がっていた。


「「「「「「ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!」」」」」」

この世界を守るために集められた魔術師たちが、布1枚の服を着せられ絶えず奇妙なポーズを取らされている。
女性はまだ見栄えがしたが、男性のその格好とポーズは哀れささえも感じる惨状だった。

彼らの中央には奇抜な仮面と黒いマントを着用した人物が1人浮いていた。
ルーナはすぐあの飛行体でやってきた異界人だとわかった。
奇抜な仮面を巨大化させたものがお城に突き刺さった飛行体にも取り付けられていた。

『これで全員ハイグレ人間になれたかしら?』

オカマ口調の仮面の男がハイグレ人間に聞く。

「いえ……申し訳ございませんハイグレ魔王様……」

よく聞き覚えのある声だった。

それはルーナもよく知る人物。サーラだった。
女王としての証の美しい装飾が施されたティアラや、マントなどは剥ぎ取られ、真っ白の敵の衣装を着せられていたが、彼女は間違いなくこの世界を統べる女王、サーラだった。

サーラは他のハイグレ人間たちより1歩前に進みハイグレ魔王に跪いた。
それはとてもこの世界の女王とは思えない行為だった。

「あと1人、ルーナという女がまだ未転向の状態です。騒ぎに気づき逃げられた可能性も……」

『仕方ないわね。今日のところはハイグレ城に引き上げるとしましょう。アンタたちもついてきなさい。レグロー征服計画は明日から開始よ』

「「「「「「ハイグレッ!ハイグレッ!1日も早くレグローをハイグレ魔王様のものに!!!ハイグレッ!ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!」」」」」」

サーラも素早く立ち上がり、周りのハイグレ人間と同じ台詞と動きを繰り返した。

その後、ハイグレ魔王の姿は消え、サーラたちはオマルのようなものに跨った兵隊に城へと誘導されながら城へ続く道を歩いていった。
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ぬ。

Author:ぬ。
本家でもちょっとだけ活動させて頂いてました。初のブログですが色々とチャレンジしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。ハイグレ、ハイグレ、ときどきアップル。

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