スパイまつざか梅 後編

 えー…大変ご無沙汰してしまってすみませんでした(´・ω・`;)
前編から1ヶ月以上かかってしまいました
みなさんのおかげで無事完結させることができました
それでは、どうぞご覧ください(`・ω・´)





 東京都庁を見下ろすハイグレ魔王の宇宙船。
 東京……新宿の街はハイグレ星人の完全な支配下に置かれていた。ハイグレ魔王のお膝元となったこの街には大量のハイグレ人間で溢れかえっていた。住んでいた人、仕事でやってきた人、学校、遊び——。老若男女のハイグレ人間たちが家にも帰らずハイグレ星人へ忠誠を誓うポーズであるハイグレポーズを延々と繰り返している。ハイグレポーズを無心で続け、ハイグレ星人からの新たな命令を今か今かと待ちわびていた。
 そんなハイグレ人間がこの瞬間も増え続けている中、この地球で唯一、ハイグレ星人から命令を受けたハイグレ人間がいた。もちろんその場で共に転向した他のハイグレ人間たちは、今のその場でハイグレポーズを続けている。そのハイグレ人間が与えられた作戦を成功させて、地球征服計画が前進することを祈ってハイグレポーズを刻み続ける。
 この地球で唯一命令を授かったハイグレ人間であるまつざか先生はハイグレポーズを行なうどころか、ハイグレ人間としての本来あるべき姿でいることも許されないまま幼稚園バスに揺られていた。バスは山奥を突き進み、質素な佇まいの民家へとたどり着いた。
「ここじゃ」
 北春日部博士が言う。すると、民家が唸りをあげてせり上がり、地下への入り口が現れた。入り口の上部には『北春日部秘密研究所』と書かれている。間違いない。まつざか先生の心が高ぶった。
 研究所は想像以上に広く、ハイテクな機械で囲まれていた。
「なるほどねぇ……。ここがそうなの」
 予定通り進んでいれば、もう間も無く研究所の上空にハラマキレディースとパンスト団が到着する。そうなればこの場にいる人間は全員ハイグレ人間となることだろう。まつざか先生は万全の状態で受け入れることが出来るように慎重に辺りを見回す。そうしていると、研究所の警報機が鳴り始めた。大きなブザー音が響き渡り、赤い警告灯が忙しく点滅を繰り返す。
「どうした!」
「は、博士、大変です! 敵の大群がこの研究所へ向かってきます」
 レーダーの監視をしている研究員が北春日部博士に報告した。
「な、なぜこの場所が……とにかくバリアー作動じゃ!」
「バリアー!」
 博士の指示で研究員が手元にある巨大なレバーを引いた。地上から何かが研究所へと打ち込まれた音が聞こえたが、室内はピクリとも揺れることはなかった。
「この北春日部の発明した電磁バリアーはそう簡単に破られはせんぞ! ダハッハッハ」
 勝ち誇ったように笑う北春日部博士。その姿を見るまつざか先生は苛立っていた。こんな小手先の対応でハラマキレディースの時間を無駄に浪費させている罪は重い。今すぐにでもそれを自覚させ償わせなければこの気持ちは収まりそうもない。
「素晴らしいわ博士!」
 まつざか先生は素早く博士の隣に走り込むと、両手を胸の前で握り感激した真似をしてみせる。全てを捧げたハイグレ星人のためなら、この男に媚びへつらうことくらい全く抵抗はなかった。むしろ色仕掛けで悩殺できるのなら躊躇いなく抱きついて頬ずりでもしてもいい。ハイグレ星人にこの身を捧げると誓ったことに嘘偽りはない。彼女から人間だった時の価値観は完全に消え失せていた。体と心だけではなく、この星もハイグレ星人に支配してもらうためにまつざか先生はついに切り出した。
「ところで、アクションストーンは今どこにありますの?」
 発明を褒められて上機嫌の博士はしんのすけを指出した。
「あ、それがな……今あの少年の腹の中にな」
「えぇ!? しんのすけくんのお腹の中に?」
 てっきりケース等にしまって厳重に隠していると思っていたが、子どものお腹の中にあるとはさすがに予想外だった。
「それほどでも〜」
 みんなの注目を集め、なぜか照れるしんのすけ。場所はわかったが、どうやって取り出そう……。博士たちと同じ悩みを抱えることになってしまったまつざか先生。 浣腸か、いっそのことこのまま差し出してしまおうか……。そんなことを考えていると……。
「ちょっと!」
 人をかき分けてリリ子がまつざか先生の前に現れた。
「どうしてあなたがアクションストーンのことを知っているの?」
 痛い質問だった。実際にまつざか先生は今朝、初めてアクションストーンの存在を知った。彼女の予想は的中した。リリ子という少女は本当に自分を疑っていて、正体を暴く隙をずっと伺っていたのだ。
「そ、それは……」
 ハラマキレディースが到着したことで少し油断してしまった。しかし、ここで正体がバレてしまっては作戦が失敗に終わってしまう。そんなわけにはいかない。まつざか先生は必死に思考を巡らせる。
「それはよしなが先生から……」
 やっと出てきた言い訳だった。口に出してから後悔した。自分自身も知らなかった物の名前を、よしなが先生が知っているはずがない。まつざか先生は完全に諦めた。
「え? アクションストーンってアクション仮面が時空移動に使ったり、持っているとアクション仮面でもアクションビームが打てるようになるっていうピンク色の石?」
「へ?」
 よしなが先生は何食わぬ顔で答えた。むしろまつざか先生より詳しいくらいだった。
「そ、そうそう! それよそれ!」
 よくわからないが、まつざか先生は話を必死に合わせる。
「あなたはそれをどこで?」
 リリ子は混乱している様子だったが、厳しい顔つきは崩さない。おそらくまつざか先生同様、2人ともスパイかもしれないと疑っているのだろう。
「しんちゃんが幼稚園に持ってきたご本に書いてあったの。勝手に幼稚園に持ってきちゃダメって職員室で預かっていたの」
「それはわしらがアクション戦士に届くように仕掛けた本じゃな」
 北春日部博士が言う。
「あれってよしなが先生の本だと思ったらひまわり組の子のものだったのね。バラ組は優秀な子たちばからりだからわからなかったわ。ホーホホホ!」
 この会話自体が怪しまれないように、なんとかひまわり組の悪口に持って行くまつざか先生。
「それなら……。疑ってしまってごめんなさい」
 明らかに悔しそうな顔でぺこりと頭を下げるリリ子。結果的にまつざか先生をスパイと暴けなかったどころか、スパイに頭を下げることになってしまった。
 反対にまつざか先生は胸をなでおろした。あと少しで作戦が失敗に終わるところだった。しかし、あの様子だと彼女は自分がスパイだと完全に勘付いている。彼女もまさかよしなが先生までアクションストーンのことを知っているとは思わなかったのだろう。リリ子でなくスパイを助けてしまったよしなが先生の間抜けさと、それ以上追求することができなかったリリ子の詰めの甘さを恨むといい。
「わしは浣腸を取ってくるから、リリ子くんは先にシェルターへ案内するんじゃ」
「で、でも……」
 リリ子は不満気な顔をする。謝ったとはいえ、未だにまつざか先生がスパイだとは確信している様子だ。
「どうしたんじゃ? いくらわしが発明したバリアーとはいえ無敵ではないからの。少し狭いがあそこなら安全じゃ」
「わかりました……私についてきてください」
 不満そうな顔でリリ子は奥へと歩き出す。リリ子を先頭にして一行は何の変哲もない壁の前へとやってきた。
「行き止まりだゾ」
 しんのすけが言う。
「待っててね」
 リリ子が壁の一部を触ると隠しスイッチが現れた。
「これを、こうすれば……キャアッ!?」
 言い終える前にリリ子は勢いよく吹っ飛んだ。勢いの余り彼女は数回床の上でごろごろと回転してから止まった。
「まつざか先生!?」
 どよめきが起きる。まつざか先生の跳び蹴りによってリリ子が吹き飛んだのを壁際にいた全員が目撃した。
「ぐ……あなた……やっぱり……」
 うつ伏せのまま顔だけこちらを見ているリリ子にまつざか先生は勝ち誇ったように言う。
「恨むなら余計なことを言ったよしなが先生と自分の詰めの甘さを恨むのね」
 それから、開きっぱなしになった壁のスイッチを睨む。
「スイッチ破壊!」 
 集中力を高め、スイッチへ向けて勢いよく踵落としをお見舞いした。ショートによる火花と煙が吹き出す。
「いったい何事じゃ!」
 浣腸片手に血相を変えた北春日部博士が戻ってきた。
「フッフフフ、1度見破られたときはどうしようかと思ったわ。ハッ!」
 まつざか先生はシャツを脱いだ。下着ではなく、真っ赤な水着の上半分がタンクトップのように見える。彼女はそのまま躊躇うことなくハーフパンツも脱ぎ捨てた。きわどい切れ込みの入った下半分も露わになる。
「「「おおっ!!」」」
「いかにも! 私はハラマキレディー様のスパイさ!」 
 両手を腰にあて、ただの下着姿より過激なその格好を恥ずかしがるどころか、むしろ誇らしそうにして男性陣の歓声を浴びていた。
 それから、満を持してガニ股になった。
「ハイグレ、ハイグレ、ハァイグレェ〜ン……」
 待ちわびたハイグレポーズを行う。この空間でハイグレ人間は自分だけ。自分だけが味わえる特別な行為。3回ゆっくりとその味を噛みしめた。 
「おまたのおヒゲはみでてるぞ」 
 しかし、しんのすけの言葉に現実に引き戻された。みんな気づいていても黙っていたことを大声で指摘する。
「ムダ毛処理してる暇なかったのよ!」
 全員の視線がまつざか先生のVラインに注がれる。北春日部博士も明らかに視線が自分の股に向けられているのがわかった。
「最後の仕上げよ!」
 まつざか先生は自分の恥部を見つめる人間たちから逃げるように猛ダッシュでもといた場所へと向かった。
「い、いかん!」
 北春日部博士が叫んだ時にはすでに彼女は華麗に宙に舞っていた。
「タァー!」
 十分に体重の乗った飛び回し蹴りがレーダーの前に座っていた研究員の後頭部に炸裂する。研究員が蹴り飛ばされガラ空きとなったスペースに着地を決めると、迷うことなくバリアーのレバーを握った。思っていたよりもずっと重かった。やはり簡単に解除できないようにしてあるのだろう。男の人でも大変なんじゃないだろうか。しかし、上空ではハラマキレディースがずっと待ち続けている。ハイグレ人間がこれ以上ハイグレ星人を待たせるわけにはいかない。
「バリアー解除!」
 まつざか先生の忠誠心が勝利した。なんとかレバーを押し切ると、激しい衝撃が研究所を襲った。天井から突き抜けてきたドリルを確認すると、まつざか先生は素早く隅に移動してハラマキレディースを出迎える。
 ドリルからはハラマキレディースの3人が登場する。それ続いてパンスト団が次々となだれ込んでくる。
「ハラマキレディース、参上!」
 ハラマキレディースは両手をヒラヒラと振る独特の決めポーズを披露する。
「「「な、なんて羨ましいんだ!!」」」
「「何て恐ろしい、でしょっ!!」」
 遠く壁際からその様子を見ていた男性陣と女性陣の声が聞こえる。リーダーが声がした方向を見た。顔を赤らめる北春日部博士の姿、なぜか床に伏せているリリ子の姿も見つけた。
「さあ、みんなハイグレ人間にしておしまい!」
 ひとかたまりになっていた集団へ向けてリーダーが叫ぶ。それを合図にハラマキレディースの3人はその場にしゃがみ、控えていたパンスト団が一斉に銃を構える。
 まつざか先生は後ろから流れるような作業を眺めていた。あと少しでこの場の人間たちは全員ハイグレ人間になる。作戦の成功を確信し、達成感を感じていた。
 人々に逃げる間も与えぬうちにパンスト団の構えた銃からピンク色の光線が一斉に発射される。光線は無差別に研究所内に乱れ打たれた。
「うわあああああああ!!」
「いやあああああああ!!」
 まず狙われたのはパンスト団のすぐ近くにいた研究員たちだった。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 男性1名女性1名、それぞれ緑と赤のハイグレ人間に変えられ、操作していた機器を離れてハイグレポーズを開始した。
「キャアアアアアアア!!」
 壁際の集団で1番最初に光線を浴びたのはリリ子だった。激しく点滅する光に包まれながらうつ伏せのまま顔をしかめて悲鳴をあげる。周りの人々は心配そうに彼女を見下ろす。しばらくして光線から解放されたリリ子は青いハイレグ水着を着せられていた。未だうつ伏せの少女。ハイレグ水着に着せ替えられたことで露出度が上がったその背中には、まつざか先生に蹴られた跡がくっきりと赤く残っていた。
 やがてリリ子はその部分を気遣うように、ゆっくりと起き上がる。まだ強く痛みが残っているようだ。
「リ、リリ子くん……?」
 博士の声に気付きリリ子は彼の顔を見ると、すぐ視線を正面に戻した。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 アクション仮面のパートナー、桜リリ子もハイグレ銃の力に抗うことはできなかった。精神的、肉体的な苦痛を堪え、深くしっかりと股を開いてハイグレポーズを繰り返す。
 集団の中で真っ先にまつざか先生をスパイと気づいた少女が、真っ先にハイグレ人間になった。リリ子が追求しきれなった要因となったよしなが先生は、変わり果てた彼女を見てただ立ち尽くすだけだ。
 国民的ヒロインが無念のハイグレポーズを繰り返すなか、研究員たちも次々とハイグレ人間へと変えられていく。
「うわああああああああ!」
 リリ子の近くで男の悲鳴が響いた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 しんのすけの父のヒロシがハイグレ人間になった。
「父ちゃん!」
「あなた……ああああああああぁ!」
 パンスト団は攻撃の手を緩めない。変わり果てたヒロシの姿を心配そうに見ていた妻のみさえもハイグレ銃に射抜かれる。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 変わり果てた両親を見上げるしんのすけとひまわり。ひろしは水色、みさえは薄紫のハイレグ姿になって、夫婦で揃ったハイグレポーズを繰り返す。
「うむ。これで大丈夫じゃ。無事なものはこっちへ! 今、扉を……だああああああああああ……」
 ボタンを押す直前で北春日部博士の背中に光線を打ち込まれた。ハイグレ銃は容赦なく北春日部博士もハイレグ姿へと変えていく。ハイグレ人間となった博士にはもう目と鼻の先にあるスイッチを押すことは許されない。
「ハイグレェ……ハイグレェ……ハイグレェ……ハイグレェ〜!」
「北春日部博士のハイグレ人間への転向を確認」
 部下の1人がリーダーに言う。博士の表情は苦痛に歪んでいたが、ハイグレ光線を浴びたら最後、個人差はあっても必ず自分たちのしもべへと洗脳される。そんなことはハラマキレディースたちが1番よくわかっている。彼女たちの中ではリリ子と北春日部博士も既に支配下へと降った扱いになっている。
「さあ、残りもさっさと片付けるわよ!」
 リーダーが命じるとハイグレ光線の雨の勢いが更に強くなった。研究員もほとんどハイグレ人間へと転向を済ませた。この場に残る人間は北春日部博士が連れ込んだ一般人だけだった。
「みんなバスへ逃げるのよ!」
 よしなが先生が子どもたちに向かって叫ぶ。彼女たちを守ろうとしてくれた人たちはみんなハイグレ人間になってしまった。リリ子もその1人だった。自分が余計なことを言わなければ、彼女がまつざか先生のスパイ行為を暴き、ハイグレ星人の研究所への侵入を未然に防げたかもしれない。こんな年齢に見合っていない過激な水着なんて着なくて済んだのに……。よしなが先生はリリ子を見た。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 ハイグレポーズを繰り返すリリ子の表情はいつの間にかとても真剣なものになっていた。ハイグレ星人の存在を知らなかったまつざか先生だけじゃない、奴らと戦うというとても強い意志を持った少女ですらハイグレ銃の前には完全に屈服してしまう。その威力によしなが先生は改めて恐怖を覚える。
「よしなが先生! 早く!」
 園長先生の言葉によしなが先生は我に返った。みんな既に彼女が避難するように指定したバスへと向かって走り始めていた。
 園長先生がドアを開け、子どもたちを車内へと誘導する。よしなが先生も乗り込んだ。ドアが閉まる。
「ふう……みんな無事……って園長先生!?」
 園長先生はバスに乗り込んでいなかった。よしなが先生は慌てて扉を開けようとする。
「よしなが先生、早く鍵を閉めてください! ここから先は一歩も行かせませんよ!」
「で、でも」
「さあ早く! うわああああああああ!」
 園長先生はその言葉を最後に大きな叫び声をあげる。バスの窓も閃光に満たされ外が見えなくなった。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」
 光が収まると、再び園長先生の声が聞こえた。外を見ると緑色のハイレグ水着を着た園長の姿があった。
「え、園長先生……」
 彼の変わり果てた姿を見たよしなが先生はドアの鍵をしっかりと閉めた。
「みんなちゃんと椅子に座ってね。あんまりお外を見ちゃダメよ」
 言われた通り大人しく座る子どもたち。マサオくん、風間くん、、ネネちゃん、そしてしんのすけとひまわり。よしなが先生はこの6人を何としてでも守り抜くと角度を決めた。広いフロントガラスから研究所を見回す。このバスへ逃げ込んだ7人以外は全員ハイグレ人間へと変えられてしまっていた。彼女の中でふつふつと小さな怒りがわき上がってくる。確かにリリ子がまつざか先生の正体を暴く邪魔をしてしまったのは認めざるを得ないが、そもそもハイグレ星人のスパイに成り下がってしまったまつざか先生に問題があるのではないか。なぜごく自然にアクションストーンのことを知った自分が責められないといけないのか。そう思ったら、彼女に思い切り文句を言ってやらないと気が済まない。そのためにもこの場所から脱出しよう。
 よしなが先生は意を決して運転席に座った。
 北春日部博士はシェルターを起動するスイッチは直ったと言っていたから、そこまで辿り着ければ……。
「免許持ってるんですか……?」
「大丈夫。仮免まで行ったことならあるわ」
 風間くんの質問に堂々と答える。
 シェルターのスイッチへ向かう前に、まつざか先生に突っ込んでやりたい黒い衝動を抑えて、各部確認を行う。
「ええっと、これがウインカーとライトで、こっちがワイパー……? ここがエンジ……きゃあああああああ!?」
 窓ガラスから通り抜けた光線が運転席に座るよしなが先生まで届いた。
「「「先生!!」」」
 車内が激しい光で満たされる。
 最後列から子どもたちが見守る中、よしなが先生は黄色いハイグレ人間になって再び姿を現した。運転席に座ったまま、両手でハンドルを握り、まっすぐ前を見つめている。
 再び目を開くと、よしなが先生の置かれた状況は一変していた。服は奪われ、代わりに黄色いハイレグ水着を着せられている。肩まで露わになった両腕、太ももを見る。ぴっちりと体に張り付く黄色の生地。股間の鋭い切れ込み。彼女はやっとハイグレ人間にされたことを理解した。既に彼女の意思に反して体が動こうとしている。今まで見てきたものが、自分にも起ころうとしていた。
 よしなが先生はスッと立ち上がる。さすがに運転席は狭すぎる……。しかし、心配はいらなかった。彼女の体は広い通路へと向かって動いた。子どもたちと目が合う。心配そうに自分を見ている。まつざか先生に文句を言うどころか、子どもたちと話すこともで出来なくなってしまった。もう、守ることは出来なそうだ。よしなが先生は目を逸らす。もうまったく言うことを聞かなくなった彼女の体は、ついにあのポーズを強要する。逆らえるはずもなくよしなが先生は諦めて大人しくガニ股になった。
「おお、よしなが先生はおまたのおヒゲはみ出てないゾ」
 もうしんのすけの言葉に反応する気力も残っていない。
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」
 よしなが先生はハイグレポーズを開始する。しんのすけにはしっかり注意しないといけない。ハイグレ人間のお股ばかり見ているんじゃないと。まつざか先生は私たちのせいでお股のムダ毛を処理する暇もなかったんだと。しんのすけがハイグレ人間になった時はしっかり注意しよう。ハイグレポーズをしながらよしなが先生はそう決めた。
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」

 まつざか先生はハラマキレディースの後ろに立って戦況を見つめていた。あれだけハイグレ星人に抵抗していた研究員は1人残らずハイグレ人間に転向した。誰もバスへ逃げ込んだよしなが先生たちを助けに行くようなことはしない。それは桜リリ子も北春日部博士の2人も例外ではない。すっかり着せられたハイレグ水着に魅了され、ハイグレ星人のしもべとして生まれ変わった。
 まつざか先生はリリ子見る。作戦を妨害しようとしたり、生意気な少女だったが、今は真剣な顔つきでハイグレポーズに勤しんでいる。自分が体を張って止めたことによって、あれ以上罪を重ねることなくハイグレ人間になれたのだから、彼女に感謝されることはあっても、恨まれる覚えはない。
「アクションストーンの隠し場所を北春日部から聞き出しますか?」
 ハラマキレディースが相談する声が聞こえる。その言葉を聞いたまつざか先生は慌てて膝を折った。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ。ハラマキレディー様、アウションストーンの隠し場所でしたら、既に私が聞き出しました!」
 3人がこちらへ向き直る。
「それはどこ?」
 リーダーが短く聞く。待ち焦がれた瞬間だった。ハイグレ星人のしもべとなってスパイ活動をしてきたまつざか先生にとって至福の時間だ。
「ハッ、野原しんのすけという少年のお腹の中です」
「少年……? 子どもはいないようだけど……」
「あのバスへと逃げ込みました」
 まつざか先生が幼稚園バスを指差す。バスの扉の前では園長先生がハイグレポーズを繰り返している。車内には彼がその身を盾にして守った子どもたちとよしなが先生がいる。
 逃げ続けるよしなが先生の往生際の悪さに苛立っていた。確かに自分のピンチを助けてくれたかもしれないが、それはただの偶然にすぎない。リリ子も北春日部博士もとっくにハイグレ人間になったというのに。
 そんなよしなが先生が、バスの運転席に座ったのをまつざか先生は見逃さなかった。あの女はまだ無駄な抵抗を続けるつもりなのか……。まつざか先生のイライラはピークに達する。
 しかし次の瞬間、よしなが先生にガラスから射し込んだ光線が命中した。車内から漏れる激しい閃光。よしなが先生は黄色のハイグレ人間に転向した。まつざか先生が見つめるなか、運転席から移動して、ハイグレポーズを始めた。少し動きづらそうだったが、彼女には丁度良いかもしれないと思いながらまつざか先生は口元がニヤけそうになるのを必死に抑える。
「よし、その少年を連れてきなさい」
「え……?」
 突然の命令にまつざか先生は反応に困ってしまった。
「少年の特徴を知ってるお前が行った方が早いでしょ」
「ハッハイグレッハイグレッハイグレッ!」
 慌てて返事をしてまつざか先生はバスへと向かった。彼女を見送ると、リーダーは残りのハイグレ人間たちに新たな指示を出した。
「基地の出入り口を全て塞ぎなさい! 地球人を1人たりとも逃すんじゃないわよ!」
 研究員だったハイグレ人間に向けられた命令だった。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 白衣からハイレグ水着に着替えた元研究員たちが揃って返事をする。命令に忠実に従って研究所に散らばっていく。ハイグレ星人の手足となって黙々と作業を始めるハイグレ人間たち。研究所を地上へと引き上げるエレベーターはロックされ、全ての出入り口が施錠された。レーダーも侵入者を検知するものから、逃走者を監視するよう切り替えられた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! レーダーシステムの切り替え完了しました!」
 まつざか先生に蹴られ、椅子からはじき飛ばされた研究員が報告する。
「万が一、研究所から出ていく者を発見しましたらすぐお知らせいたします!」
 ハイグレ星人の接近を知らせた研究員は、地球人の脱出を監視するハイグレ人間へと変わってしまっていた。彼は椅子に座ることなくレーダーを見つめる。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! 研究所内の施錠完了しました!」
 次々とハイグレ人間たちから報告が入る。地球征服計画を成功させるためにハイグレ人間たちは動き回る。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。ハラマキレディー様。シェルターを開けるためのスイッチの破損による無効化を確認しました。とても子どもには開けることはできないでしょう」
 最後に報告に現れたハイグレ人間は、この研究所のトップだった北春日部博士だった。彼もさきほどの命令が聞こえると、すぐにスイッチの確認をして、自らの手でダメージを与えた。ハイグレ光線を浴びたが最後、博士もハイグレ星人のしもべの1人として忠実に命令に従っていた。
 まつざか先生はリリ子の前を通過する。続いて野原一家の隣を通り過ぎる。みんなすっかりハイグレ人間の顔になっていた。しかし、しんのすけをバスから連れ出す任務を受けたハイグレ人間は自分ただ1人だけ。優越感に浸りながら彼女たちを一瞥してバスの前に到着する。
 ドアの前では相変わらず園長先生がハイグレポーズを繰り返している。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」
 まつざか先生が目の前にいることすら気づいていないようだ。夢中でハイグレポーズを行っている。彼はもう車内の子どもたちを守るための盾ではない。
「どいてくださいます?」
 未だに自分に気づかない園長先生に言う。
「ハイグレ、ハイグレ……こ、これはまつざか先生! すみません、気がつきませんでした」
 あっさりと園長先生は扉の左側へと動いた。
「もう用はないですから自由にしていていいですよ」
「わかりました。では失礼して……ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ!」
 園長先生は待ち焦がれていたハイグレポーズを再開した。
 ガラ空きになった扉。まつざか先生は開けようとしてみるたが案の定、鍵もしっかりかけられていた。窓からはよしなが先生の姿が見える。苦笑いを浮かべているが、ハイグレポーズを拒絶しているようには見えない。彼女はしっかり鍵の役目を果たせるだろうか。
「よしなが先生、ここを開けなさい!」
「ハイグレッハイグレッハイグレッ。まつざか先生、待ってて今すぐ開けるわ!」
 鍵はすぐに駆け寄ってきて扉を解錠した。よしなが先生自らの手で扉が開かれる。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! さあ、どうぞ入って!」

 これまでずっと楽しい空間を提供していた幼稚園バスの中は、恐怖と不安に支配されていた。
「ね、ねえ……これからどうするの?」
「あいつらが狙っているのは、しんのすけのお腹の中にあるものなんだろ?」
「風間くんなんで知ってるの? もしかしてオラのこと……」
「さっき博士が言ってたじゃない」
「言ってた……」
「たい!」
 6人の子どもたちが最後列のロングシートに座って話している。ここだけを見ると平和な光景だ。
 しかし、外へ目を向けるとハイグレ光線の矢が飛び交い、それに撃たれたハイグレ人間たちで溢れていた。ドアのすぐ前では園長先生までハイグレ人間となってハイグレポーズを繰り返す。外だけではない……。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 子どもたちを守って一緒に避難したよしなが先生はガラスを透けて侵入してきたハイグレ光線を浴びてしまった。子どもたちを守れなかった罪悪感からか引きつった笑顔でハイグレポーズを繰り返す。
「みんな! まつざか先生がこっちに来るよ!」
「マサオくん、ちょっと静かにして! それにダメじゃない、あまりお外は見ちゃダメってよしなが先生に言われたでしょ!」
「ゴ、ゴメンね、ネネちゃん……」
 窓を覗いていた坊主の気弱そうな少年がまつざか先生の接近を伝えたが、5人の中で唯一の女の子のネネちゃんに一喝されてしまう。
「研究所の中の人たちも動き回ってる。何か始まるのかな……」
「もう! 風間くんまで……」
「北春日部博士も……ボタンを壊してる……」
「まつざか先生が組長と何か話してるゾ」
「たいたい!」
「ああ、園長先生どいちゃった……」
「もう! 情けないわね」
 結局6人全員が窓から先生たちの様子を伺う。園長先生はまつざか先生に進路を譲り、ハイグレポーズを再開した。
「あたし絶対あんな格好になるの嫌!」
「ボクも絶対嫌だね」
「ボ、ボクも……ヒィッ!!」
「まつざか先生……こっち睨んでる」
 本人はただ見ていただけだったが、子どもたちは窓際から慌てて撤退した。
「中に入ってくるつもりかな……?」
「そうなったら……作戦B……」 
「作戦Bって何だったっけ?」
「お前を守りながら北春日部博士が言ってたシェルターに避難する作戦だよ」
「でもさっき博士がスイッチ壊してたってボーちゃんが……」
「北春日部博士も避難用のスイッチを壊れやすくは作ってないはず……きっと直せる」
 ボーちゃんが力強く言う。
「おお! 春日部防衛隊ファイヤー!」
「お前はいいよな。守られる側なんだから」
 そんな緩い打ち合わせをしていると、車内にまつざか先生の声が響き渡る。
「よしなが先生、ここを開けなさい!」 
 最後列までしっかりと聞こえた。その声がよしなが先生に聞こえていないわけがなかった。子どもたちはもしかしたら、よしなが先生がこのまま鍵を開けずに守ってくれるかもしれないと淡い期待を抱いた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ。まつざか先生、待ってて今すぐ開けるわ!」
 期待も虚しくよしなが先生は血相を変えてすぐに扉に駆け寄った。彼女は一切躊躇うことなくまつざか先生の言葉に従って解錠後、扉を開けた。まるでこの時を待っていたかのようだった。
 彼女にはもう子どもたちを守ろうと誓った時の面影はなかった。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! さあ、どうぞ入って!」
 ハイグレポーズを行ってから、まつざか先生を招き入れる。よしなが先生はもう身も心もハイグレ人間になってしまっていた。まつざか先生と入れ替わるように彼女はバスを降りる。
「ハラマキレディー様に迷惑ばかりかけて、まったくひまわり組は恥ずかしくないのかしら?」
 バスの入り口で、担任にも園児にも聞こえるようにまつざか先生が嫌味ったらしく言う。いつもなら、この嫌味によしなが先生が反論し、園長先生が2人をなだめるという流れが定番だが、今回は違った。
「ハラマキレディー様やあなたの邪魔をしてしまったことはとても恥ずかしいし、反省してるわ……」  
「ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ」
 園長先生は2人のやり取りをまるで聞いていない。
 まつざか先生はまだ続ける。
「やっぱりよしなが先生にはど田舎でスイカでも齧ってた方がお似合いだったんじゃない?」
「そうね……まつざか先生の言う通りだわ……」
 体を縮こめて答えるよしなが先生。その様子を見てまつざか先生はさらにヒートアップする。
「今回の件でひまわり組とバラ組、どちらが優秀かハッキリわかったわね」
 まつざか先生の受け持っているバラ組は幼稚年で全員ハイグレ人間になっている。ひまわり組は担任と園児5人が研究所へ逃げて、そのうちの1人がアクションストーンを体内に隠し持っている……。
「まつざか先生のバラ組の方が優秀だわ」
よしなが先生は教え子たちの前でハッキリと答えた。
「でもよしなが先生はまつざか先生と違ってお股のおひげはみ出てるゾ」
 しんのすけが言う。
「なっ!?」
 まつざか先生はよしなが先生のVラインをさりげなく確認する。たしかに綺麗に処理されている。これが恋人がいる女との違いか……。
「だからこれは……」
「しんちゃん!」
 突如、よしなが先生が戻ってきて一喝した。
「まつざか先生は地球のために頑張ってるから時間がなかったの! そんなこと言ったらしんちゃんのママだってお股のおヒゲボーボーだったわよ!」
 ムダ毛を処理済みの女に、二児の母を比較に出されて、擁護される。まつざか先生は逆に惨めな気持ちになってきたので、彼女を再びバスから降ろした。
「もういいから、ここは私に任せて、あなたは園長先生と待ってなさい」
「わかったわ、まつざか先生!」
 よしなが先生は素早く退くと、園長先生と向かい合うように立って、ハイグレポーズを始める。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレ」 
「ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ」
 まつざか先生はバスの奥へと進んで行く。子どもたちを守ると誓った先生2人は彼女の侵入を快く許し、すべてをまつざか先生に任せハイグレポーズに興じていた。
 最後部の座席に近づいていく。狙いはアクションストーンを体内に隠す少年、野原しんのすけのみ。妹を抱いて子どもたちの中央に座っている。何としてでもハラマキレディースに彼を差し出さなくては。
「さあ、こっちに……」
「春日部防衛隊、ファイヤー!!」
「「「ファイヤー——ー!!」」」
 大きな掛け声と共に6人の子どもたちがまつざか先生に突進した。
「くっ」
 子どもたちはまつざか先生をすり抜け、出口へと突き進んでいく。
「しまった!」
 園児たちをまつざか先生は慌てて追いかけた。しかし、狭いバスの中では子どもたちの素早い動きには追いつけない。
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
 外に出た子どもたちの叫び声が聞こえる。まつざか先生がバスを出ると、風間くんとネネちゃんがハイレグ姿になっていた。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」
「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」
 青とピンクの小さいハイグレ人間。それと黄色と緑の大人のハイグレ人間。4人は少しずつ違うペースでハイグレポーズを繰り返す。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレ」
「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 
「ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ」
 この2人の子たちはもう逃げることはない。まつざか先生は残りの逃走者を探す。リリ子がいる方向へと走る子どもたちの姿を捉えた。まつざか先生は4人のハイグレ人間の間を素早くすり抜けて彼らを追う。
「風間くんとネネちゃんが!」
「振り返っちゃダメ……しんちゃんだけでも、守らないと……」
 後ろを何度も振り返るマサオくんにボーちゃんが言う。
「ボーちゃんって早く動けるんだね」
 ひまわりを背負いながら走るしんのすけが全力疾走するボーちゃんを見ながら言った。
「時々……」 
「ああああああああぁぁぁ!」
 最後尾を走っていたマサオくんの声が聞こえる。
「マサオくん!」
 しんのすけが振り返ると、マサオくんは真っ赤なハイレグ水着姿になっていた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 体が反り返る勢いでハイグレポーズを開始するマサオくん。しんのすけは彼の姿を見て呆気にとられている。 
「みんなを助けるためにも、ここから逃げなきゃ……!」
 ボーちゃんが足を止めるしんのすけを呼ぶ。
 3人はリリ子の脇を通り過ぎる。彼女は逃げ惑うアクション戦士を助けることもなくハイグレ人間として、ハイグレポーズを途切らせずに続ける。
「ふんっ」
 ボーちゃんはスイッチの基盤へ向けて鼻水を飛ばした。
「これで、動く」
 そう言うと、本当に壁がどんどん奥へと下り、隠し扉が現れた。
「さあ、行こ……ぼおおおおおおお!」
 シェルターを目の前にしてボーちゃんはハイグレ光線に包まれる。
「ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……」
 ボーちゃんは自分のペースでゆっくりとハイグレポーズをはじめる。
「ボーちゃん……」
 ゆっくりとだが、しっかりとハイグレポーズを刻むボーちゃん。しんのすけは心配そうに彼を見る。
「待ちなさい!」
 まつざか先生が近づいてくる。すでにマサオくんを通り越した。
「い、いくぞ!」
「たいっ」
 意を決し、しんのすけは隠し扉へ続く通路を進む。
「びええええええっ!」
 ひまわりの悲鳴が通路に響く。その瞬間、しんのすけの背中が軽くなる。
「ヒマ……?」
 しんのすけは恐る恐る後ろを見る。そこには黄色いハイレグ水着を着てぺたりと床に座る妹の姿があった。ハイグレ星人は例え赤ん坊でもハイグレ人間になったとなれば容赦しない。ひまわりもハイグレ光線によって徹底的に刷り込まれたハイグレ星人のしもべとして、本能が命じるままに体を動かす。
「ヒマが立った……?」
 ハイハイしかしたことがないひまわりは、誰に言われるでもなく立ち上る。そのままガニ股になり……。
「はいぐれっ、はいぐれっ、はいぐれっ、はいぐれっ」
「しゃべった……」
 ひまわりが初めて喋った言葉はママでもパパでもなく、ハイグレ星人へ忠誠を誓う言葉だった。これには一足先にハイグレ人間となった両親も誇らしいだろう。
「やっと追いついたわよ!」
 変わり果てた妹を見ているうちに、まつざか先生に完全に追いつかれてしまった。真っ赤なハイレグ水着を着たまつざか先生はじわりじわりと近づいてくる。
「うう……ヒマ、ごめんね!」
「はいぐれっ、はいぐれっ、はいぐれっ、はいぐれっ」
 しんのすけは扉へ向けて走った。慣れない動きと言葉を繰り返すことで精一杯のひまわり。その横をまつざか先生が通り過ぎる。
「逃がさないわよ!」
 まつざか先生は思い切り手を伸ばしてしんのすけのズボンを掴んだ。
「うおお!?」
 勢い余ってパンツまで掴んでしまい、下半身がすっぽんぽんになったしんのすけはシェルターの中に転がっていった。しんのすけを追って彼女も中へ突入する。
「んもう、まつざか先生ったらごーいんなんだから……おパンツがないとスースーして走りに……ゔっ……くい……ぞ……」
 起き上がったしんのすけは再び床に崩れ落ちる。彼のお尻には浣腸が突き刺さっていた。北春日部博士がハイグレ人間になったときに落としたものだった。
「ハイグレを着ればもうズボンなんていらないわ。……ん?」
 まつざか先生はズボンの中に入っていた金色のカードを見つける。
「これって確かチョコビのオマケの……あら?」
 シェルターの壁にカードの形と同じ凹みを見つけた。合わせてみたら本当にピッタリだった。カードがセットされると、更に奥の扉が開かれた。
「三輪車……?」
 そこには金色の3輪車が鎮座していた。
「これは、このカードも含めてハラマキレディー様に報告が必要そうね」
 まつざか先生は浣腸による腹痛で動けないしんのすけを猫のように摘み上げ、シェルターを出た。
「ちょっと」
 シェルターを出ると、ハイグレポーズに夢中になっているリリ子に声をかける。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、なんでしょうか……?」
 リリ子は少し気まずそうに返事をする。
 まつざか先生は彼女に金色のカードをかざす。
「これは何なの?」
「それはナンバー99のアクション仮面カードです。アクション仮面をこちらの世界に呼ぶためにアクションストーンと一緒に必要な道具です」
 ハラマキレディースのスパイであるまつざか先生に隠す理由は全くない。リリ子はあっさりと答える。
「あの中にあった3輪車は? このカードをセットしたら現れたけど……」
「北春日部博士の作ったスーパー3輪車です。自動操縦で空が飛べて、3つの特殊能力を持っています」
 リリ子は淡々と最後の頼みの綱の詳細を包み隠さず説明する。
「なるほど……これでしんのすけくんを脱出させるつもりだったのね」
「はい、その通りです。でも、まつざか先生のご活躍でその危険はなくなりました」
 リリ子は真顔でまつざか先生を讃える。
「まだ危険は残ってるわよ。この子からアクションストーンを取り出しなさい! もう浣腸は打ってあるわ」
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ!」
 リリ子は3回ハイグレポーズを行って了解を意を示した。
 
「はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」
 アクションストーンを浣腸によって体外に排出し、用済みとなったしんのすけは速やかにハイグレ人間へと転向させられていた。
「これからはハイグレ魔王様にご迷惑をかけちゃダメよ」
「はいぐれっはいぐれっはいぐれっ。オラ、良いハイグレ人間になれるように頑張るゾ! はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」
 すっかり従順なハイグレ人間へと変えられてしまったしんのすけ。アクションストーンを飲み込んでしまうほどやんちゃな少年もハイグレ銃は忠実なしもべに洗脳してしまう。
「アクションストーンの洗浄、完了しました」
 まつざか先生のもとへ同じく忠実なハイグレ人間としてすっかり洗脳された少女が駆けてきた。
「ご苦労様。って手で持つの……」
「私が責任持ってしっかり洗いましたから大丈夫です!」
 自信満々にリリ子が答える。まつざか先生は渋々彼女からアクションストーンを受け取った。
「……ハラマキレディー様にお渡しするものだから、やっぱり何か入れ物持ってきて頂戴」
「ハイグレッハイグレッハイグレッ。かしこまりました!」
 まつざか先生にアクションストーンを託したまま少女は再び全速力で走っていった。

 広く無機質な空間。所狭しとコンピューターが敷き詰められ、壁にはたくさんのモニターとそれを操るレバーやボタンが埋め込まれている。レーダーは異常なしの状態を示して、バリアーのレバーは解除されている。
 室内にバスが1台停められていてる。派手で目立つ子ども用の三輪車が細い通路の先の小部屋に見える。しかし、バスの中も三輪車が置かれている小部屋も無人だった。
 研究所内にはコンピューターの動作音やノイズが聞こえる。その他には数人の話し声。そして——。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 1カ所に集められて整列したハイグレ人間たちの揃ったハイグレポーズに伴う声が研究所内を満たしていた。
 ハイグレ星人から地球を守るために戦っていた研究員たちと北春日部博士。ハイグレ星人から逃げてやってきた人々。アクション仮面に選ばれ、ハイグレ星人から地球を守るためにやってきたアクション戦士とその家族。そしてアクション仮面のパートナー。その全員がハイグレ人間に……つまりハイグレ星人の忠実なしもべに生まれ変わった。
 ハイグレ人間たちは3列に並べられて規則正しくハイグレポーズを繰り返す。最前列は子どもたち。2列目に一般人に加えてリリ子と北春日部博士。3列目は研究員たちがずらりと並ぶ。ハイグレ人間たちの視線は、彼らが絶対に逆らうことの出来ない存在であるハラマキレディースへと向けられていた。
 ハイグレ光線を浴びたら最後、ハイグレ星人には絶対服従。強力な洗脳によって本能へ徹底的に刷り込まれる。ハイグレ姿はもちろん、ハイグレポーズが素晴らしいものだという価値観、ハイグレ星人への言葉遣いや挨拶などの対応も事細かに刻み込まれる。ハイレグ水着が恥ずかしいと言っていた女たちも、男用じゃないと拒絶していた男たちも、皆一様に魅了されハイグレの虜になってしまう。
 もちろんここに並ぶハイグレ人間たちも例外ではない。リリ子や北春日部博士、みさえやネネちゃん、ひまわりでさえもハイグレ人間の立場を理解し、ハイグレ星人の命令には絶対に逆らうことはない。ハラマキレディースに並ぶよう命じられれば次の瞬間には整列する。次の命令が下るまでじっと静かに待ち続け、ハイグレポーズの許可が出たら、寸分の乱れもなくハイグレポーズを繰り返す。そして、新たな指示が出るまでハイグレポーズを延々と行い続ける。
 ハイグレ人間の集団の視線の先にいるハラマキレディース。3人の隣に、整列もハイグレポーズもせずに彼女たちに跪いているハイグレ人間が1人いた。ハラマキレディースのスパイとして暗躍したまつざか先生だった。
「ハラマキレディー様、こちらがスペアのアクションストーンでございます」
 まつざか先生はアクションストーンを宝石などを入れる小箱に入れ、両手を使って差し出す。
「これで全部?」
「はい。北春日部博士に確認したところ、作り出したスペアはこれだけとのことです」
「この金色のカードは……?」
 リーダーが一緒に箱に入れられていたアクション仮面カードに気づいた。
「アクション仮面をこちらの世界に呼ぶために必要な道具の一つのようで、アクション戦士が所持していましたのでご一緒にお入れ致しました」
「わかったわ。もう戻っていわよ」
 リーダーはまつざか先生に言った。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ!」
 まつざか先生はハイグレポーズを行った後、ハイグレ人間の集団の中に混ざった。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 よしなが先生の隣に並び、周りに合わせてハイグレポーズを始める。

 乗っ取られた研究所の中で、アクションストーンが敵の手に渡る。屈辱的な光景が目の前で繰り広げられてもリリ子と北春日部博士、研究員たちは微塵も気にすることなくハイグレに勤しんでいる。ハイグレ人間となった彼らは、アクショントーンが研究所外へ持ち出されずハイグレ星人の手に収められたことで不安材料がなくなり、心置きなくハイグレポーズに集中することが出来るようになった。
 
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 アクションストーンと手に入れ、作戦を成功させたハラマキレディースは、目の前で服従するハイグレ人間たちを見ながら談笑し、完勝っぷりに酔いしれていた。ハイグレ人間たちは会話の中で茶化されたり嫌味を言われたりしても、大人しく従順にハイグレポーズを続ける。
「リーダー、今日の朝からテレビで流してるハイグレ魔王様のメッセージ放送に使っているハイグレ人間たちをここに差し替えましょうよ。ここのハイグレ人間が地球人に投降を呼び掛けたら効果ありそうじゃないですか?」
 オレンジのアイデアに紫も乗っかる。
「試してみましょうよ」
「面白いアイデアね。ハイグレ人間たち、試しにやってみなさい。みんなハイグレを着よう! てねっ」
 リーダーが笑いながら言う。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんな、ハイグレを着よう!! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 瞬時に命令に従ってリーダーが望むセリフを叫ぶハイグレ人間たち。自分たちを嘲笑する雑談であっても、嫌味を言われしまった事をしっかりと反省しながらもしっかり会話を聞き、命令が発せられればすぐに従う。これもハイグレ人間として刻み込まれた本能の1つだった。
「はい、もう1回」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんな、ハイグレを着よう!! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
「キャハハハハッ」
「ははっ無様ねえ」
「あぁ〜みっともない」
 ハラマキレディースの3人はお腹を抱えながら愉しそうに笑った。
「あとでハイグレ魔王様に提案してみるわ」
 リーダーは満足そうに言った。

『その必要はないわ。却下よ』
 どこからともなく聞こえた声。ねっとりとしたオカマ口調。まるで脳内に直接注入されているようだ。
 ハイグレ人間たちにも聞こえているようで、童謡からか少しハイグレポーズのリズムが乱れる。
「ハ、ハイグレ魔王様!?」
 慌ててリーダーが辺りを見回す。
『ご苦労だったわね。ハラマキレディース」
 モヒカン頭にピエロのような仮面、黒いマントで全身を覆ったオカマ。ハイグレ星人のトップであり、ハイグレ人間たちの所有者であるハイグレ魔王のホログラムが出現した。園児たちほどの背丈で、ふわふわと宙に浮いている。ハラマキレディースはビシッと姿勢を正し、ハイグレ人間たちもハイグレポーズを終了させて直立する。ハラマキレディースとハイグレ人間たちの真ん中に現れたハイグレ魔王は、ハラマキレデースへと体を向ける。
「アクションストーンを手に入れ、北春日部博士とその一味を根こそぎ始末するなんて上出来じゃない」
「ハッ、身にあまるお言葉をいただき光栄です。ハイグレッハイグレッハイグレッ」
「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」
 リーダーに続いて部下2人もビシッとハイグレポーズを決める。
「お前たちもハイグレ魔王様にしっかりご挨拶をするんだよ!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 その言葉を待っていたかのように、命令に従ってハイグレ人間たちがハイグレ魔王にハイグレポーズを捧げる。ホログラムとはいえハイグレ魔王を目の前にして、ハイグレポーズまで行ったハイグレ人間たちは、直立の体制に戻った後も熱っぽく魔王を見つめていた。逃げ回っていたよしなが先生も、散々ハイグレ星人を敵視していたリリ子も頬を紅潮させている。男性陣も本来無縁のはずたったハイレグ姿へ変えようと企てた張本人へ尊敬の眼差しを注ぐ。
「アクションストーンをお寄越し」
「……この場でよろしいのですか?」
 突然の指示にリーダーが聞き返す。
「そうよ。直接触りたくはないじゃない」
「一応洗わせましたけど……」
「そんなのは当たり前よ。その上であたしは触りたくないの」
 ハラマキレディースが差し出した小箱に入っていたアクションストーンにハイグレ魔王が手をかざす。するとピンク色の石はふわりと浮き上がった。旋回させたり、ぴたりと動きを止めてみたりと自由自在にアクションストーンを操るハイグレ魔王。石を遊ばせたまま魔王はくるりと後ろへ向き直る。
「そこのハイグレ人間」
 誰のことを言っているのかはハイグレ人間たちにもすぐわかった。
「作戦は成功よ。ご苦労だったわね」
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハイグレ人間には勿体ないお言葉をありがとうございます。ハイグレ魔王様のお役に立つことができて幸せです」
 まつざか先生は感激のあまり声が震える。まさか直接言葉をかけられるとは思っていなかった。
「お前たちもこのハイグレ人間を見習ってあたしの為にしっかり働くのよ」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!! 全てはハイグレ魔王様のために!!」」」
 残りのハイグレ人間たちが一斉に返事をする。同僚のよしなが先生も、リリ子も北春日部博士も野原一家、園長先生に園児たち、それと研究員たちまでがまつざか先生を讃え、ハイグレ魔王に彼女を模範にすると誓った。
「ところで北春日部博士? あたしたちの作戦の内容……知りたいかしら?」
 明らかに聞いて欲しそうにハイグレ魔王が聞く。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。北春日部で結構でございます。私はもう博士などではなくハイグレ人間。ハイグレ魔王様に忠誠を誓ったしもべです。ハイグレ魔王様、我々を正しき道へと導いて下さった素晴らしき作戦を、どうかこの愚かなハイグレ人間にお教え下さい」
 北春日部が答える。
「あらそう。あんたはどうなの。聞きたいの?」
 同じ質問が今度はリリ子へ向けられる。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハイグレ魔王様のありがたいご説明を拝聞させて頂く機会をどうか私たちハイグレ人間にお与えください!」
 リリ子も即答した。
「そこまで言われたら仕方ないわねえ」
 ハイグレ人間2人に懇願されて、ハイグレ魔王は作戦の内容を話し始めた。
「街でTバック男爵と会ったのは覚えているわね?」
「はい。私たちはTバック男爵様から逃げるという愚行を犯してしまいました……」
 リリ子はTバック男爵をバスで弾き飛ばした光景を思い出す。運転席に座っていた園長先生に発車の指示を出したのは他でもないリリ子だった。
「ホホホ、お前たちは逃げられてなんかいないわよ。あれはあたしが追わないようにTバックに命令したの」
 ハイグレ魔王は愉快に笑う。
「いいこと? お前たちも知っての通り、この地球上にあたしの力と対抗しうる力を持つ者は言わずと知れたアクション仮面よ。確かに——」
「違います!」
 演説の途中でリリ子が叫んだ。
「ハイグレ魔王様はアクション仮面なんかよりずっとモゴッ!?」
 ハイグレ魔王は遊ばせていたアクションストーンをリリ子の口の中へ打ち込んだ。
「ハイグレ人間の分際であたしに文句言う気なの!?」
「も……もうひわけありまふぇん……ふぁいふれはおーふぁま……」
「まったくお前たちは下品で困るわね」
 気を取り直してハイグレ魔王が続ける。
「確かにあのときアクションストーンを手中に収めることもできたわ。ウッフフフフフフ……」
 肩を震わせて笑うハイグレ魔王。アクションストーンを口内に入れられたままのリリ子は、魔王の機嫌が回復したようでホッとする。
「でも、お前たちを放っておけば、馬鹿正直に秘密基地に戻るでしょ? フッフフフフフフ——」
 ハイグレ魔王は必死に笑いを押し殺す。ハイグレ人間たちはその様子を身動きひとつせず真剣な眼差しで見つめる。
「だから……秘密基地を見つけ出して、1人残らずハイグレ人間にしてから、残ったクションストーンを手に入れても、遅くはないのよ」
「ぷはっ!」
「ほらっこんな感じにね」
 リリ子の口からアクショントーンが飛び出し、ハイグレ魔王の頭上に戻った。
「お前たちはあたしの手のひらの上で踊らされていたのよ。最初からず〜っとね」
「ハイグレ魔王様にはすべてお見通しだったのですね」
 自由になった口でリリ子がハイグレ魔王を讃える。 
「あたしの地球征服計画はアクション仮面からアクションストーンを奪ったときから全て順調よ。つまり、その時点でお前たちがこうなることは決まっていたのよ」
「私たちをハイグレ人間にして頂きありがとうございます! ハイグレ魔王様は地球の……私たちの支配者です」
 リリ子はうっとりとトロけそうな表情で言った
 あれだけアクション仮面を呼ぼうと奔走していたヒロインの面影は残っていない。彼女はハイグレ光線を浴びて、あっけなくハイグレ人間となってしまった。ハイグレ星人から見たらただのしもべの1人に過ぎない存在になり果てた。
 ハイグレ魔王はアクションストーンとしもべたちで遊ぶのにも飽きてきたので、そろそろ本題に入ることにした。アクションストーンをハイグレ人間の頭上へと移動させ、ピタリと固定する。
「砕けよ!」
 言葉と同時にアクションストーンが粉々に砕けた。ピンク色の細かな破片がキラキラと研究所に舞い散る。
「フフフフフフ……ハハハハハハッ!」
 小さいホログラムは体を大きく揺らし、体を仰け反らせながら大声で笑った。
「作戦完了。お前たちの負け……私の完全勝利よ。最後まで美しく完璧だったわ」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 ハイグレ魔王の勝利宣言にハイグレ人間たちはハイグレポーズを行う。感情が最高潮まで昂ぶったハイグレ人間たちのハイグレポーズは止まりそうにない。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 ハイグレ人間たちは完敗を認めるのはもちろん、ハイグレ星人たちのしもべという立場を受け入れ、全身全霊で支配者を称える。気を良くしたハイグレ魔王はハイグレ人間たちに覇者の言葉を放つ。
「ホッホッホッホッホッホッホッホッ! もうお前たちの最後の希望だったアクション仮面が来ることはないわ!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 ハイグレ人間たちは返事をする代わりにハイグポーズを続ける。アクション仮面を呼ぶ手段は砕け散り、アクション仮面を呼ぼうとしていた勢力もハイグレ魔王の軍門に降った。
「お前たちが何をするか、それを考えるのはあたしよ!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
「お前たちはあたしたちの言われた通り動いていればいいの」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
「あたしはハイグレ魔王。この地球の支配者!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 ハイグレ人間たちはハイグレポーズを繰り返しながら、支配者の言葉を頭にしっかりと刻み込んでいく。
「ハラマキレディース、詳しい報告は城で聞くわ。帰ってきなさい」
「ハッ」
 自分たちへと向き直ったハイグレ魔王にリーダーがキリッと返事をする。
「あ、この基地は破壊してくるのよ。それと……もうお黙り!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 ハイグレ魔王の言葉に一瞬にして興奮状態だったハイグレ人間たちは静まり返る。全員ガニ股から直立不動の体制へと戻った。
「それと……ハイグレ人間たちは人里まで向かわせなさい」
「この辺りはまだ我々の勢力圏下では……」
 リーダーが恐る恐る進言する。
「あらいいじゃいの。北春日部たちの姿を見たら何て思うかしらね。なんならパンスト団も一緒に向かわせてもいいわよ」
「か、かしこまりました」
 幹部クラスでもハイグレ魔王には逆らえない。彼女はこれ以上は何も言わず承諾した。
「それじゃあ待ってるわよ。じゃあね」
「ハイグレ魔王様をお見送りしなさい! ハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」
 リーダーの言葉に部下2人が続く。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 最下層のハイグレ人間たちは最後に挨拶を許された。
「ホーホッホッホッ」
 甲高い笑い声を残しハイグレ魔王の姿は消えた。
 ハラマキレディースは早速作業に取り掛かる。ハイグレ人間たちを地上へ移動させ、自分たちとパンスト団はオマルに跨り空中から研究所を見下ろす。無人となった研究所へ向かってパンスト団に攻撃命令を出した。
 到着直後に放った攻撃はバリアーによって防がれた。しかし、もうそんなものは存在しない。地上部分の民家が跡形もなく消し飛ぶ。研究所の姿が露わになる。
「バリアがなければハラマキレディー様はこんなに簡単に研究所に入れたのよ」
「わしが余計なものを作ったばっかりに……申し訳なかった……」
 まつざか先生の嫌味に対して北春日部が弱々しい声で謝っていた。
「本当に悪いのはアクション仮面です」
 北春日部を慰めたのは、バリアを起動させまつざか先生に派手に蹴られた研究員だった。
「あなた、もう痛みは大丈夫?」
「はい! 私はあなたのおかげでハイグレ人間になることができました! 私だけではありません。同僚たちはみんなあなたに感謝しています!」
 彼の後ろでたくさんのハイグレ人間たちが力強く頷いている。北春日部博士もリリ子も頷いていた。そのハイグレ人間たちのかつての職場はすでに瓦礫の山になっていた。
長年積み重ねてきた成果が詰まった機材もバリアのスイッチもスーパー三輪車も全て破壊された。
 やがて、パンスト団を上空に残して腹巻きレディースの3人が降りてきた。ハイグレ人間たちは既に研究所と同じ並びで整列していて、ハイグレポーズで迎えた。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
「あたしたちは城へ戻るわ。あんたたちも魔王様のご命令通りにするのよ」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 ハイグレ人間たちはハラマキレディースをまっすぐ見て返事をする。ハイグレ魔王の命じるまま動くと誓ったハイグレ人間たちには当然のことだった。
 ハラマキレディースの3人はゆっくりと1人の女のハイグレ人間の前へ向かった。
「ご苦労だったわね」
 リーダーがまつざか先生に言う。
「魔王様はあんなこと言ってたけど、今回の作戦はスパイの役割が重要だったから助かったわよ」
「見事に地球人たちを欺いて作戦を成功させたわね」
 突然の賞賛にまつざか先生は顔を真っ赤にして戸惑ってしまう。
「そ、そんなこと……ハイグレ魔王様とハラマキレディー様の作戦が素晴らしかっただけですわ……」
「いや、あれはどのハイグレ人間でも出来るってわけじゃないわよ」
「そうよ。そうよね?」
 オレンジのハラマキレディーはよしなが先生に聞いた。
「えっ!? あ、その……私もまつざか先生だから出来たと思います」
 突然の質問にびっくりしながらも、よしなが先生は認めた。
「お前たち! 誰のおかげでハイグレ人間になれたかをしっかり考えて行動するのよ! ハイグレ魔王様やあたしたちはもちろんだけど、お前たちは間違いなく感謝すべきハイグレ人間がいるのを忘れちゃいけないわよ!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 まつざか先生を除く全員のハイグレ人間が返事をする。
「まったくその通りですね」
「アクションストーンも地球人も逃さなかったのは素晴らしいわ」
 ハラマキレディーは更に賞賛を送り、予想外の誉め殺しにまつざか先生の頬は自分のハイレグのように真っ赤になっていた。
「オラもバラ組がよかったな」
「ぼくたちが優秀な子が集まるバラ組には入れるわけないだろ」
「ひまわり組のぼくたちまで助けてくれるなんて、まつざか先生かっこいい!」
「あたし大人になったらまつざか先生みたいな素敵なハイグレ人間になる!」
「まつざか先生……綺麗……」
 ひまわり組の園児たちがまつざか先生の話で盛り上がっている。
「仮に幼稚園に残っていたのが私やよしなが先生だったと思うと……。まつざか先生はふたば幼稚園の誇りです。よしなが先生もしっかり見習ってくださいね」
「私もハイグレ魔王様とハラマキレディー様の仰られた通り、あなたを見習って立派なハイグレ人間になれるように頑張るわ! 今まであなたのこと悪く言ってしまっていて本当にごめんなさい!」
「わかればいいのよ。よしなが先生」
「みんな、まつざか先生みたいな立派なハイグレ人間になりましょうね!」
「「「はい!よしなが先生! ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 ハラマキレディースに続いて、ハイグレ人間たちからも褒め殺しに会う。
「あの……」
 後ろから弱々しい声がして振り向くとリリ子がもじもじしながら立っていた。
「あの……あの時、私を止めて下さってありがとうございました。あの行動で作戦が失敗していたらこんな痛みでは済まなかったはずです。本当にありがとうございました! ハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」」
 まつざか先生へ向けてハイグレ人間たちがハイグレポーズが捧げる。
「さて、あんまり遅くなると魔王様に何を言われるかわからないし、そろそろ行くわね」
「バイバーイ」
「元気でね」
 3人はそう言うと再びオマルに乗って宙へと浮いた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハラマキレディー様こそお元気で……」
 まつざか先生は空へと遠ざかっていくハラマキレディースへ向けて身体を激しく反らしてハイグレポーズを捧げた。
「みんな、ハラマキレディー様がご帰還なさるわよ! しっかり見送りなさい! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!!!!」」」
 ハイグレ人間たちはまつざか先生主導でハイグレポーズを揃えハラマキレディースを見送る。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!!!!」」」
 ハイグレポーズはハラマキレディースの姿が見えなくなっても終わることはなかった。まつざか先生は彼女たちが消えていった方向を見続けハイグレポーズを繰り返す。彼女がやめない限り残りのハイグレ人間たちも続ける。空が赤く染まっても、日が落ちてもハイグレ人間たちのハイグレポーズが終わることはなかった。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!!」
「「「 ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!!!!」」」
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お疲れ様でございました!

後編拝見させていただきました!素晴らしいハッピーエンドありがとうございました!!
素晴らしい世界になって無事皆ハイグレ人間になれて良かったです(^o^)
ミミ子もアクション仮面も出ることなく敗北も良かったです。
現れても敗北だとは思いますが(^o^)
素晴らしい小説ありがとうございました!

Re: お疲れ様でございました!

>ひろさん
コメントありがとうございます(`・ω・´)
魔王様が自ら2人を呼んでサシで戦うというのも面白いかもしれませんね。まあ魔王様の大勝利以外は考えられませんけども(*´д`*)
こちらこそお読みいただきありがとうございました!

No title

こんばんハイグレー!(`・ω・´)ノ さっそく読みに来ましたぜぇ

そして読了ー! 前編を上回るボリューム&クオリティに興奮が止まりません!( * ´ д ` * )まつざか先生がひとたび活躍してしまえばアクション仮面なんて戻ってくる事すら叶わずみんな無事ハイグレ光線を浴びてハイグレ人間になって大団円安定! というIfを目の当たりにして、ますますまつざか先生の重要性とそれを阻んだリリ子よしなが先生北春日部博士の罪深さを再認識させられたばかりか、後編内での彼らの扱われっぷりがそのまま魔王様に逆らった罰であるかのように描写されているのが素晴らしいれふ……!

やっぱり原作準拠ハイグレSSはぬ。さんの分野だなぁ、と嘆息しつつ私も少しでも追随できるよう頑張らなきゃ(使命感(`・ω・´)ノシ ということで(?)『ハイグレクエスト』の続きも心待ちにしながら今宵はこのへんでではではー!

ハイグレ人間

しばらくは本家SSはお休みですか?
本家SSは他ではなかなか見れないので。。ここでしか期待できなくて。。
僕はまだ学生で自分で書く能力もないので。。他力本願で申し訳ないのですが。。

Re

>01016さん
コメントありがとうございます&いらっしゃいませ
洗脳されればハイグレ人間は過去に関係なくみんな平等だとは思うんだけど、最後の集合シーンでまつざか先生のみが笑顔なところを見せられた嫌でも妄想は膨らんでしまうわけで……
研究所に散らばっていたハイグレ人間たちはハラマキレディー様の命令で整列したんだろうし、子どもたちの引きつっていた表情や、よしなが先生の苦笑いも消えていることから、あの時点で洗脳は7割以上完了していると思ってます。その上で反省やわずかに残る抵抗から笑顔にならず真剣な表情になってるんだと。そう考えるとまつざか先生の笑顔の中には少なからず優越感は存在していたと妄想せざるを得ない(*´д`*)

原作は意外と設定やセリフ、言い回しなどすごい制約が多くて世界観を壊さないようにするのに気を使うんですよね
0106さんにお褒めの言葉を頂くのは恐縮ですが、改めて俺は原作が大好きなんだなと思いました
原作準拠のSSもトモの覚え書きも楽しみに待ってます
お互い頑張りっていきましょう! では(`・ω・´)ノシ

Re

>はいぐれさん
コメントありがとうございます
本家SSというのは原作SSのことですかな…?
短いものであれば、書きたいシチュエーションなどが浮かんだときは不定期で今後も投稿させていただこうと思っています
そのときはまた読んでやってください

学生さんとのことですが、小説を書き始めるのに年齢は関係はないと思いますよ! 俺も書く能力は正直全然ないので偉そうなことは言えないですが、ハイグレ小説を書くのはすごく楽しいので、能力に関係なく書いてみて、もしはいぐれさんが楽しかったらそれで良いんだと思います
まあハイグレ小説は内容が内容だけに紙とペンがあれば! ってわけにはいかないので……というかパソコンなどの機材が学生さんには1番のハードルになるのかなあ……
ただ、作品の投稿環境は最近再始動した新興宗教ハイグレ教さんや、日々たくさんの投稿があるハイグレ小説王国さんなど、かなり整備されています。環境が許せば、はいぐれさんも是非ハイグレ小説書いてみてください(`・ω・´)

新たなハイグレ小説書きさんの誕生を楽しみに待ってますよ(*´д`*)

原作

おはようございます。
原作SSのifをいろんなバージョンの短編を書いていただきたいなぁと勝手ながら思ってしまいました。。すみません。。

Re

>ひろさん
コメントありがとうございます&こんばんわ(`・ω・´)

良いシチュエーションやネタが浮かべば原作の短編は今後も不定期で投稿を予定しています
実は現時点で何点かネタがあって構想は練っていたりします(*´д`*)
これが形になるかは正直わかりませんが……

面白かったや読みたいなどと言っていただけるのはハイグレ小説書きとして本望ですからね。とてもありがたいです
今後とも当ブログをよろしくお願いします(`・ω・´)

やっぱ原作はいいなぁ。。。
ありがとうございます。もう原作SSは見れないのかなぁ

Re: タイトルなし

>あやさん

コメントありがとうございます
タイミング的にifのリメイクの作業に追われてまして、なかなかコメントの返信ができず申し訳ありませんでした(´・ω・`;)
と、いうわけで! 前述の通り、リメイクという形ではありますが、ぬ。の原点であるifを公開させて頂きました
他のSSとも合わせて是非お楽しみください(*´д`*)
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