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クレヨンしんちゃん ハイグレ魔王とシモベたちの逆襲! 第10話


毎度ありがとうございます。ぬ。です

遅くなってしまいましたが、改めまして…
空想ハイグレ妄想の第2回「ハイグレポーズ」をお読み頂きありがとうございました
ハイグレポーズを無理やり3パターンに分けてみたのですが、創作や妄想のお役に立てれば幸いです

そして……
通りすがりさん製作ゲーム「プラネタリア戦記」の体験版DLおよびプレイありがとうございます!
体験版とは思えないボリュームとエロさですよね!控えめにいって最高、最強、無敵

相乗効果でぬ。のモチベも高水準で推移しております
通りすがりさんも楽しみにして下さっているのでWin-Win(古)になれるように頑張っていきたいと思います!
というか「シモベたちの逆襲」の名付け親の1人ですからね。通りすがりさん。名前負けしないようにしないと(`・ω・´)



そんなわけでまさかの話数2桁突入
シモベたちの逆襲第10話
どうぞ!( ・`ω・´)











 家族揃っての誓いのハイグレタイムは30分ほどで終了した。ひろしが団羅座也アナウンサーがいなくなったニュース番組を垂れ流すテレビの電源を切った。ハイグレ人間を排除しようとする番組などにもう用はない。
 みさえがひろしの足元に落ちているクシャクシャになった新聞に気づいた。
「そういえば、その新聞がどうしたの?」
「ああ、そうだった。実はとんでもない事が書いてあるんだよ」
 思い出したように新聞へと手を伸ばすひろし。まだ息が整いきっていない。汗ばんだ体と、その汗を吸って硬くなったハイレグ水着の生地を伸ばすように腰を曲げる。新聞を拾い上げると、シワを丁寧に伸ばしてから一面に描かれている記事の内容を家族へと向けて読み上げた。北春日部博士がフラッシュバックへの治療薬を開発済みということ。その治療薬の改良版が開発され、ハイグレ光線にも有効なほど強力であること。しかし、現存する新薬の数は僅かで量産化にはまだ至っていないということ。アナウンサーの件も踏まえて、自分でも反芻するように丁寧に記事の文字を声へと変えていく。

「北春日部博士たちにこの薬を打たれたら、私たちもハイグレ人間じゃなくなる可能性があるのね」
「ああ。だから研究所では絶対ボロをださないように気をつけないと。前回もまつざか先生がリリ子ちゃんにスパイだと見抜かれてるから油断は禁物だ」
 ひろしが念を押す。
 子どもたちが不可抗力で正体がバレてしまう可能性も否定できない。北春日部6号の通信でミミ子は自分たちを疑っていて、それをリリ子たちにも伝えていた。リリ子は注意こそしてはいたが、それも確定的な証拠がないだけで信用しているとは思い難い。少しでも隙を見せれば例の薬を打ち込まれる可能性が高い。そうなってしまえば作戦は失敗に終わってしまう。

「博士とリリ子ちゃんは何時頃に迎えに来てくれるんだっけ?」
 ひろしがみさえに聞いた。

「10時頃に来るって言ってたわよ」

 2人で掛け時計を見る。短い針は10の文字を指していた。長い針は59分を示す線の上に留まっている。コッコッと秒針が均一の速さで進み続ける。秒針がてっぺんへと帰ってきた。カチリと長い針も秒針と共に帰還する。10時だ。

 ピンポーンとリビングに鳴り響く電子音。野原家の掛け時計に時報機能なんてついていない。玄関のチャイムの音だ。

「野原さーん」

 聞き覚えのある声が玄関から聞こえた。

「北春日部博士と、桜リリ子です。お迎えにきました〜」

 再びチャイムが押される。今度は2連打だった。

 ひろしたちは顔を見合わせて、慌てて立ち上がる。テレビに見入っていてすっかり着替えるのを忘れていた。ハイグレ1枚の格好でバタバタと寝室へと駆け込んだ。部屋の隅には昨日の深夜に脱ぎ捨てたままの洋服がそのままの状態で置かれていた。嫌だとか文句を言っている余裕もない。慌ててひろしとみさえが服を着る。洋服なんて何十年と昔から着ていたはずなのに、ハイグレ人間としての生活に慣れすぎてしまっていてモタついてしまう。みさえは自分の着替えが終わると、嫌がる子どもたちにも服を着せた。

 準備が整ったところで4回目のチャイムが押される。

「野原さ〜ん?」
「はーい」

 洋服姿のみさえとがよそ行きの声で出迎える。多少のシワは残っていたが違和感なく着こなせている。
「いらっしゃい。今日はよろしくね」
 靴下を履き終えたひろしも玄関に到着した。扉の向こう側には桜ミミ子がちょこんと立っている。
「おはようございます!」
 双子の姉なので当然だが、何度みてもミミ子そっくりだ。服の色でしか見分けがつかない。仮に同じ色のハイグレ水着を着せられたら何人が見分けることができるのだろうか。彼女の後ろには北春日部博士が立っている。前回と同じ白衣姿だ。以前よりも少し疲れているようにも見えた。新薬開発で忙しいのだろうか。

「さあ、あがってお茶でも」

 みさえが2人を招き入れる。今日は車も壊れず、北春日部博士のお腹の調子も良好のようで、2人はまっすぐ玄関からリビングへと進んだ。
 リビングでは洋服へと着替えたしんのすけとひまわりが絵本を読んでいた。お茶を入れるみさえにひろしが小声で聞いた。
「なあ、あの2人を家にあげて大丈夫か?」
 仮にも敵の親玉である。万が一ここで勘づかれてしまっては研究所へと向かう作戦がパーになってしまう。
「大丈夫も何もお茶も出さずに、いきなり行きましょうって方が怪しまれるわよ。あとは薬のことも聞きたいし……それにもしバレたらここで2人ともハイグレ人間にしちゃえばいいでしょ……?」
 みさえの大胆な考えにひろしは驚きを隠せなかった。そういえば2人がリビングに入ってから、しっかり玄関の鍵も閉めていた気がする。あの日の夜もそうだが、本当に敵に回すと恐ろしい女だ。

「今日は本当にありがとね」
 庭に面する窓側に並んで座る博士とリリ子にそれぞれ麦茶とオレンジジュースの入ったコップを置くみさえ。しんのすけにはオレンジジュースに加えてチョコビを渡した。余計なことを喋らせない為だろう。
「いえ。皆さんにはお世話になりましたから」
 ペコリと頭を下げるリリ子。
「今の平和な地球があるのも、野原さんたちのおかげじゃよ。アクション戦士のしんのすけくんの頼みとあっては断るわけにはいかんからな」
 北春日部博士も頭を下げた。
「それほどでも〜」
 既にジュースを飲み干し、チョコビを平らげようとしているしんのすけが誇らしげに言った。

「まあ今は少し忙しいことになっとるが、それも今年いっぱいじゃろう」
 博士の言葉にリリ子の眉がピクッと動いたのをみさえは見逃さなかった。
「博士その話はーー」
「朝刊読みましたわ。なんだか大変なことになってるのね」
 みさえがテーブルの上にクシャクシャになった新聞を置いた。博士とリリ子が顔を見合わせる。博士は小さく頷くと口を開いた。

「ハイグレ人間の思考が戻ってしまう症例は日に日に増え、今では社会現象といっていい状態となっておる」
 北春日部博士は睨みつけるように真剣な顔つきで続ける。
「これまでは長期的な治療が必要とされ、治療期間も症状によってかなりの差があった。今回ワシが開発した新薬を使えば速くて半日、遅くとも2日で症状が治まる。発症していない者に投与してフラッシュバックを予防させることも可能じゃ。じゃが、この薬はまだ5本しか製造できていない。しかし量産体制は確認済みで来月には50本以上が生産できる予定じゃ。さらに生産を加速させれば年内には発症者全員に投与することが可能となる。来年中にハイグレ人間転向経験者全員への予防投与を行いフラッシュバックの発症を根絶させることができる」
「リリ子くん。アレを持ってきてくれるかね」
「はい」
 リリ子は立ち上がると、路上駐車されている車の中へと向かった。戻って来たリリ子は両手にグレーのケースを抱えていた。両側にダイヤルがあるボックスには、しんのすけはもちろんひろしたちにも見覚えがあった。かつてスペアのアクション・ストーンを飴玉に偽装して収納していたケースだ。リリ子はケースをテーブルの置くと両側からダイヤルを捻り蓋を開けた。中には1本の注射器が格納されていた。綺麗な青色の液体で満たされている。

「これが昨日発表した治療薬じゃ」
 テーブルの上に置かれた地球の未来を救う薬を、みさえとひろしは恐怖の毒薬でも見るかのように眺めた。
「予防というのは……?」
「基本的には発症済みの人間に対しては完治。未発症の人間は半永久的に防ぐことが出来る」
「試してはいないけど、ハイグレ光線を打たれたハイグレ人間にも効くほど強力なの。再びハイグレ魔王が攻めてきても、この薬で対抗できるわ!」
「そうじゃな……」
 北春日部博士も頷く。

「あの、この薬を事前に打っておくと、その……ハイグレ光線も効かなくなるんでしょうか?」
 ひろしが聞いた。怪しまれるかもしれないが、どうしても確認しておきたかった。

「実験はしていないけど可能性は十分にあるわ」
「この薬は治療を目的としているから、ハイグレ光線を浴びたハイグレ人間にも効くほど強力というのも副産物でしかないんじゃよ。地球がもう1度侵略対象になる可能性自体低いじゃろう」
 北春日部博士は話を止めて神妙な面持ちでひとくち麦茶を飲む。
「治療や予防に関しても実際はまだ試していないんじゃ。リリ子くんにワシらで治験しようと提案したんじゃが、まだ待ってくれと言われての」
「博士!」
「おっと、スマンスマン」
 博士はそそくさと注射器をケースへと戻した。
「さて、随分と長居をしてしまったようじゃ。そろそろ行くとしよう」
 博士はでっぷりとした体をテーブルについた両手で支えながら立ち上がった。
「みなさん、外に車が停めてあるのでどうぞ乗ってください」
 博士に促されて、ひろしたちも腰を上げた。ぞろぞろと玄関へと続く廊下へと歩き出す。庭に出ると北春日部博士たちは道路へと停められたクラシカルな車へ、野原家は青いマイカーへとそれぞれ向かった。子どもたちを後ろに乗せて、キーを挿して捻りエンジンを始動させる。夏の太陽に蒸された室内にエアコンの風が吹き渡る。先導をしてくれる北春日部博士の車の出発を待つ。カーステレオの操作などをしながら博士の車の出発を待つ。ミラーとシートの調整を終えたあと、服の下のハイグレも微調整して出発を待つ。両手でハンドルを握りながらクラシックセダンの動向を見つめる。すると運転席のドアが開き、北春日部博士が降りてきた。後部座席からリリ子も降りてくる。ひろしも車を降りた。みさえもしんのすけも続く。

「すまん、どうも車の調子が悪くてな」
「最近エンジンのかかりが悪くて……少し時間を置けば大丈夫だと思います」

 ひろしは年季の入った車を見つめる。前回と同じ車だ。塀や電柱にぶつかりまくり、最後は幼稚園バスと衝突して大きな損傷をしたにもかかわらず修理が可能だっただけでも奇跡だろう。
 そこに見覚えのあるピンク色のバスが走ってくる。北春日部博士の車を避けるためにスピードを落とした。まさかこのバスはまさに博士の車にダイレクトアタックを決めたあのバスではないだろうか。徐行するバスがぶつからないように左側の窓からよしなが先生が顔を出した。そのまさかだった。バスと乗用車の距離を運転席に座る運転手に的確に伝えている。

「あら」

 当然ながら駐車場からぼーっとバスを眺めていたひろしと目が合う。

「野原さん!」

 バスは無事に難所を脱出して野原家の玄関前で停車した。よしなが先生は首を引っ込めて窓を閉めた。代わりにプシュッと音を立ててバスの扉が開く。

「旅行に行かれたんじゃなかったんですか?」

 バスから飛び出してきたよしなが先生は驚いた様子でひろしたちを見る。 ひろし、みさえ、しんのすけの次に、北春日部博士とリリ子を見てから、路肩に停められている車を確認するよしなが先生。

「あ、よしなが先生。こちら以前お世話になった北春日部博士と桜リリ子ちゃん」
 みさえがバスと前に進み出て改めて紹介をする。
「博士、リリ子ちゃん。こちら双葉幼稚園のよしなが先生です」

 見覚えのある顔同士、記憶を蘇らせながら軽く会釈をする。バスの奥から黄色いチェックのスーツを着た色黒の男が現れた。ギラリとサングラスが夏の太陽光を反射させる。

「これからご出発ですか?」

「ギャッ!」

「組長、顔が怖いゾ」

 玄関の前に立つ面々が怯えて後ずさりするなか、1人平然とした様子でしんのすけが言った。

「僕は組長じゃなくて園長! それに顔が怖いのは生まれつきだから仕方ないの!」
 目を潤ませながら否定をする園長先生。

「ご旅行中と聞いていたんですが……」

 園長先生が不思議そうに聞いた。

「実はな、しんのすけくんたちをワシの研究所に招待して今から出かけるところなんじゃ。道路を塞いでしまって申し訳ない」

 北春日部博士が園長先生に説明する。リリ子がその様子を黙って見守っていた。


「いえいえ。無事に通れたので大丈夫ですよ。今日のプール教室は夏休みのせいか、しんのすけくん以外にもお休みの子が多くて時間にも余裕がありましたし」

 
「実はな車が故障してしまってな。出発できずにいたんじゃよ。通れなかったらどうしようかと思ったわい」

「そうだったんですか。それは災難でしたね……あ、それなら」
「それならこのバスを使いませんか!?」
 園長先生の後ろからよしなが先生が顔を覗かせ提案する。

「いやしかし……」
 北春日部博士はリリ子に視線を送り確認をする。リリ子も博士同様に博士に確認の視線を送っていた。

「今日いる子たちはみんな研究所へ行った子たちなんです」
 バスの中から窓越しに様子を伺っている子どもたち。風間くん、ネネちゃん、まさおくん、ボーちゃんの4人だ。

「ふむ……」
 顎に手を当ててしばし考え込んだ。

「あの子たちも巻き込んでしまったからな。これも何かの縁じゃ。みんなも研究所にお誘いしよう」

 博士はリリ子だけでなく、ひろしたちにもバスに乗るように促す。リリ子はよしなが先生に案内され渋々バスへと乗り込んだ。
 ひろしの脳内は今日一番の高速回転をしていた。偶然北春日部博士の車が壊れ、偶然幼稚園バスが通りかかる。偶然プール教室の参加人数が少なくて、お休みをとっていたしんのすけの家の前を通った。こんな偶然の合わせ技なのに自分たちを園長先生が研究所まで送ってくれるという。あまりにもトントン拍子で話が進みすぎではないだろうか。もしかすると双葉幼稚園もグルで自分たちを陥れようとしているのではないか。一抹の不安がひろしの脳裏によぎる。北春日部6号のときのように周到に準備された作戦かもしれない。ひろしはポケットへ隠しているハイグレ銃へ手を伸ばす。いざとなったらここで全員ハイグレ姿にするしかない。

「しんちゃんたちもはやく!」
「ほ〜い!」

 よしなが先生に名前を呼ばれたしんのすけは勢いよくバスの乗車口に飛び込んだ。
「おい、しんのすけ!?」
 ひろしが慌てて止めようとするも間に合わなかった。あちら側の作戦にまんまと嵌ってしまったか……。

 しかし、いくら待っても特に何も起こらなかった。父親の心配を他所にしんのすけは最後部の席に座ってお友達とおしゃべりに興じていた。

「乗りましょう。あなた」

 ひまわりをギュッと抱いたみさえは、口を一文字に結ぶとバスに乗り込んだ。くるりと振り返りひろしを見る。今回も何も起こらない。みさえは力強く頷いた。「大丈夫」と目が言っている。ひろしも彼女に続いて乗車した。運転席の後ろの席に座る。博士とリリ子とは通路を挟んで隣になった。よしなが先生が職員用の椅子に座った。子どもたちも含めて全員が座ったことを確認すると、園長先生が運転席へと向かった。



 出発したバスは住宅街を抜けて大通りへと出た。

「途中で幼稚園に寄ってから研究所へと向かっても大丈夫ですか?」
 運転席でハンドルを握りながら大きなルームミラー越しに園長先生が聞いた。

「ああ。もちろんかまわんよ」

 北春日部博士がゆっくり頷く。

「そうだわ! まつざか先生も誘いましょう!」

 パンッと手を叩いてよしなが先生が提案した。

 名前を聞いた瞬間、リリ子と北春日部博士の表情が曇ったのをひろしは見逃さなかった。無理もないだろう。まつざか先生……あのとき研究所にいたら絶対に忘れることはできない名前だ。スパイとして研究所に潜入し、研究所を見事陥落させた赤い悪魔こと伝説のハイグレ人間である。ハイグレ人間のときの行動とはいえ、彼女の一連の仕事は記憶に深く刻まれていても仕方がない。僅かな時間だったが、彼女と一緒にハイグレをすることが出来たのはひろしの心に強く残っている。すぐに感情を隠した北春日部博士と対照的にリリ子は顔を歪めたままだった。まつざか先生がスパイであることを見抜いたのは他でもないリリ子だった。しかし研究所の陥落を防ぐことはできず、苦い思い出として残っているのだろう。

「そうですね。まつざか先生も喜ぶと思いますよ」
 園長先生も笑顔で同意した。
 バスは前回と全く同じルートをなぞるように走り双葉幼稚園へと進んでいった。




 幼稚園の入り口の前でバスはゆっくりと停車する。いよいよ研究所までもう1歩だ。前回と同じ道を走っているためか、ひろしは逆に緊張感が増している気がした。前回はまつざか先生が飛び出してきて急停車したことを思い出す。彼女の決死の行動がなければ何事もなく研究所へと辿り着き、しんのすけの体内からアクション・ストーンを取り出されてしまっていただろう。研究所の中はバリアで守られ自分っがハイグレ人間になる機会も逃していた。もとの地球へと戻りハイグレ人間という素晴らしい経験と記憶もないまま、今この瞬間も変わらぬ日常を送っていたことだろう。まつざか先生には感謝をしてもしきれない。今回の作戦を彼女のように無事成功させたら改めてお礼を言おう。そう心に決めた。

「あれは……まつざか先生?」

 バスから降りようとしたよしなが先生が言う。みんな窓から幼稚園の庭を見た。まつざか先生が血相を変えて幼稚園バスへと走ってくる。

「園長先生ー!!」

 艶やかな黒髪を振り乱し駆け寄るまつざか先生。よしなが先生は慌ててバスの扉を開けた。

「園長先生……! 副園長先生が!」

 額から流れる大粒の汗を拭うこともせず、切れる息を必死に抑えながら要件を伝えようとする。

「まさか……妻が……?」
 園長先生も席を立ちよしなが先生の隣に立つ。

「副園長先生が……また職員室でハイレグ姿に……!」

 要件を言い切ると、まつざか先生は憔悴したようにその場に座り込んでしまった。
「す、すぐに病院で頂いた薬を打ちましょう!」
 園長先生は先頭を切ってバスを降りた。
「申し訳ありません……取り押さえようとしても暴れるもので……」
「いや、君のせいじゃないよ。ありがとう」
 数回ほど首を横に振る。妻の対応をしてくれていたまつざか先生を労うと園長先生は職員室へと走っていった。
「わしらも行こう」
「はい!」
 北春日部博士とリリ子も園長先生の後を追った。
「俺も行ってくる! みさえはしんのすけとひまわりを見ていてくれ」
 自分以外のフラッシュバックの症状を初めて目の前で見る機会を逃してはならないとひろしもバスを降りた。現行の治療薬の威力も確かめるチャンスだった。


 ひろしは引き戸が開けっ放しにされた職員室の中へ入る。すぐに同志である副園長先生の姿を探した。彼女の姿は見つけられなかったが、場所は簡単に特定できた。教員用の机が並ぶ部屋の隅に立つ北春日部博士とリリ子の2人。その付近から女性のものと思われるうめき声が聞こえた。近くへ行ってみると、園長先生によって副園長先生はすでに取り押さえられていた。彼女は蛍光ピンクの競泳水着を着ていた。

「あなた……離してちょうだい! 私はやっぱりハイグレの素晴らしさを忘れられないの!」

 仰向けにされた副園長先生は虫のように拘束を振り払おうと必死にもがく。抵抗を重ねる度にぴっちりタイトな生地の水着が彼女の熟れた体へと食い込んでいく。
「ああーー! 私にハイグレをさせてえええ――――――」

「うう……この歳で……哀れな」

「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレェッ!」

 園長先生はポケットから緑色の液体の入った注射器を取り出す。四肢を押さえつけられながらの不恰好なハイグレポーズを繰り返す妻の首へと躊躇いながらも針を突き刺した。

「は……あ、いぐれ……ああ……はい……ぐれ……ああああ!?」

 薬液が副園長先生の体内に注入されていく。必死の抵抗もむなしく、ぐったりと力が抜けた副園長先生はそのまま眠るように意識を失った。

「これで3本目ですね……」
 妻の頭を膝の上に載せて、乱れた水着を直しながら園長先生はため息をついた。

「個人差はあるが、この様子だとあと2〜3回の投薬が必要かもしれん……」
 北春日部博士が言う。

「私も……私もあの日ハイグレ人間になりました。いつかは妻のように……このような醜態を晒してしまうのでしょうか? 2人で同時に発症してしまったら私たちを誰が止めてくれるのか……」
 園長先生の腕は震えていた。

「ゼロとは言い切れん……が、開発中の新薬が完成すればその心配はなくなる。もう少しの辛抱じゃ……」
「この幼稚園にも本人や親御さんが治療中の子が何名かいらっしゃいます。妻と、みんなのためにもどうか……新薬の開発をよろしくお願いします」
 リリ子へ妻を引き渡すと、園長先生は立ち上がって北春日部博士へと頭を下げた。

「ん……いたた」
 副園長先生が目を覚ました。

「ん……やっ……これは……」
 起き上がって自分の体の惨状を確認した。

「私はまた……こんなキツい水着着たくないのに……」
「リリ子くん、彼女を頼んでいいかな?」
「はい。こちらへ」
 両手で顔を抑えてうつむく副園長先生は、リリ子に支えられるようにして奥の部屋へと消えていった。

「現行薬でもこんなに即効性があるんですか?」
 薬の効き目に驚いたひろしが北春日部博士に聞いた。

「ああ。時間に個人差はあるが投薬後にすぐ意識を失い目覚めた時は元の状態に戻っておる。ただ、再発してしまうんじゃ。大体は2〜5回で完全に症状を断つことができるんじゃが……」

 ひろしは机の上に置かれていたリモコンを手に取る。職員室のテレビを点けた。お昼間のニュースが流れていた。

「続いてのニュースです。埼玉県春日部市のマングースマンションにて――」

 恐ろしい映像だった。ついさっきまで同志だった団アナウンサーが何食わぬ顔でスーツ姿でニュースを読んでいる。自ら脱ぎ捨てた将棋の駒がデザインされたあのスーツを着て。

「今朝もハイレグの水着姿になってましたけど、この人も薬を打たれて回復したんですね」

「彼はすでに10回以上の投薬を行なっておる。ハイグレ光線を大量に浴びたせいで完治まで時間がかかっているようじゃ」

 テレビを覗き込み同情するように北春日部博士が言った。

「何度もテレビの前で服を脱いでますもんね……」

 園長先生もテレビ画面を見る。幼稚園の教員室から憐れみの視線を送られながらも、アナウンサーはまるで朝から何事も無かったかのように原稿に目を落として読み上げ続けている。定時のニュースが終わり、団アナが深々と頭を下げた瞬間、テレビ画面がブラックアウトした。

「よしなが先生から聞きました」
 いつの間にか教員室へとやってきたまつざか先生がリモコンを持ちながら言った。

「せっかくですけど私は遠慮させて頂きます」

 机に静かにリモコンを置く。

「副園長先生もあんな調子ですし、それに……私は行かない方がいいと思います」

 みんなの視線を気にするように目を伏せながらまつざか先生は言った。
「私は大丈夫ですよ」
 副園長先生がリリ子と共に戻ってきた。しっかしとし足取りで表情は穏やかだ。
「まつざか先生に罪はありませんが、皆さんに会いにくい気持ちもわかります。でお、これはいい機会じゃないですか」
「でも……」
 副園長先生に説得されても彼女は研究所に行くことを渋った。
「私も歓迎するわ」
 腰ほどの高さからリリ子が言った。自分をスパイだと見抜いた因縁の少女から正式に招待を受ける。
「よかったわね! まつざか先生!」

 遅れて教室にやってきたよしなが先生が嬉しそうに言った。

「わしも賛成じゃ」

 両手を腰に当てて北春日部博士も頷く。
「わかりました。お言葉に甘えてお邪魔させて頂きます」

 まつざか先生は降参するように了承すると、みんなと一緒にバスへと乗り込んだ。
 副園長先生に見送られ幼稚園バスは研究所へと向けて出発した。


つづく

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感想と報告

新作きましたq~楽しみしていました!
面白いですね~今後の展開とか気になりますね~
さて!僕の小説ですがハイグレ小説を書いています!
1話だけで終わらせるつもりはありません!
インフニット∗ストラトスと言うアニメです
男子に恋してるヒロインやクラスメイト達がパンスト兵にねとられる感じです
インフニット∗ストラトス略してIS!ISを学ぶ学校IS学園がHG学園に変わってしまう展開を考えています
お楽しみにしていただけたらと思います!

Re: 感想と報告

>神速の双劍さん
コメントありがとうございます
今回はちょっと退屈な薬の説明回でしたけど、来月からは一気に話が進むと思います!
インフィニット・ストラトスの連載作品ですか!
自分もアニメは見たことがありますので楽しみです!(*´Д`*)

はいぐれ

こんばんは。いつもありがとうございます!楽しみに待ってました!
この説明の回がよりこれから先の素晴らしい展開のスパイスになりますね。いまからワクワクしてます!いつも素晴らしい文章で凄いなぁって思います。ぬ。さんに出逢えてよかった。。

Re: はいぐれ

>ひでさん
コメントありがとうございます
今回は治療薬の説明と効果を前面に出した回でした
ハイグレ光線もチートなら治療薬もそこそこにチートですので今後の展開で活かしていきたいです
文章はまだまだ勉強中ですので連載を通して少しでもレベルアップしていけたらと思っています
次回もワクワク楽しんで頂けたらと想いを込めて執筆中です!よろしくお願いします(`・ω・´)

感想

新作投稿、そして話数二桁突入おめでとうございます。
いよいよ次回が天王山の北春日部研究所となり、盛り上がってきましたね~。

新薬に限らず、現行薬でもかなりの効き目ですね。
根絶は時間がかかるとしても、バレたその場での応急措置には十分威力を発揮しそうです。
まだ5本しかない新薬、とはいえ野原家へ持参している辺り唯一ハイグレ人間化していたひろしに治験投与する流れなのかと思いきや……。
北春日部博士自身もまだ投与していない上に何か今後の展開を窺わせる煮え切らない発言、新薬開発の裏にはフラッシュバック根絶以外の目的が隠されているのか……?
まつざか先生も登場しましたし、どこに隠れハイグレ人間が潜んでいるのか分からないミステリー仕立て。
今後も楽しく予想しながら読ませて頂きます。
プロフィール

ぬ。

Author:ぬ。
本家でもちょっとだけ活動させて頂いてました。初のブログですが色々とチャレンジしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。ハイグレ、ハイグレ、ときどきアップル。あと野球。

※こちらに投稿作品をまとめてあります。こ利用ください
ライブラリ
保管庫

通りすがり氏制作ゲーム
プラネタリア戦記(仮称)

ツイッターとの連携で設置しています。なにかございましたらどうぞ
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